1-4 日常 その4

 繁華街の中にある大きな広場。ベンチに座って一休みする者、宙に浮かぶ半透明のウィンドウを操作しながら次に向かう場所を思案する者、そこには老若男女問わず様々な人々が集まっている。その広場の中央に設置されてある噴水のそばに光の柱が突如として現れ、それが消えると四人の男が立っていた。ヤルダバルトとクリムゾンメテオ、そしてその対戦相手となっていた二人だ。だが、周囲の人間はと前触れなく現れた四人に驚くような素振りも見せず、それが日常の一ページであるように、まるで気にしていなかった。四人のうちの一人、蒼白の機体を操っていたパイロットがヤルダバルトに食って掛かる。当のヤルダバルト本人は少し困ったような、それでいてバツが悪そうな顔をしていた。


「テメェ! 一体何しやがったんだ! 自爆してから完全に反応がロストしてたんだぞ!? それでどうしてまた出てきやがる、チートしやがったのか!」


「いやー、俺もアレほど全部上手く行くなんて思っちゃいなかったんだ。つーかあんなの実質全部クリムゾンメテオがお膳立てしてくれたから成功したようなモンで、俺一人じゃ普通に落とされて終わりだったって。悪いな」


「ふざけんな! せっかくあのクリムゾンメテオとの対戦だってのに、テメェが何から何まで邪魔しやがる!」


その言葉を聞いて、くだんのクリムゾンメテオが二人の間に入って仲裁しようとした。彼はヤルダバルトを庇うようにしながら、蒼白の機体のパイロットをなだめようとしている。


「まあそういきりたってくれるな。少なくとも、このヤルダバルトがチートやバグ利用のような真似をするような男ではないということは、私が保証する。だがな、その上で私もあくまでおおまかにしかできること聞かされていない。君たちと同じで彼が一体何をやったのかわからん。私はそれに興味がある。ひとまずここは一旦何が起きたのかを聞きだして、その上で判断をしてみようじゃないか。私の顔を立てると思って、な」


「あ、あなたがそうまで言うのでしたら……」


「さて改めて聞くとしようヤルダバルト。お前は一体、何をしたんだ?」


「まあ種明かしをしたら大したことじゃねぇよ。俺はあの戦闘に機体を二機持ち込んだ、それだけだ」


「待てヤルダバルト、さも何でもないことのように訳のわからないことを言ってくれるな。あの戦闘に乗り換えルールは設定して無かったんだぞ、使える機体は公平に一機ずつと決まっている。それでなぜ二機の機体を持ち込むということが可能になる?」


「それじゃあ軽く何があったか整理するか。さっき俺は黒い機体に乗って試合早々自爆させた。そんで中から出てきた白い機体でお前が誘導した機体にトドメを刺した。ここまではいいよな?」


「ああ、それはいい。だからこそ解せん。私は最初、損傷した外部装甲をパージして内部の機体を保護するフルアーマーシステムを採用したのかと思ったが、アレでは自爆のダメージは装甲内部へ素通しする。ならフルアーマーの外部装甲に爆薬を仕込んで自爆したように見せかけたのかとも思ったが、それでは自爆した後お前の機体の反応が沈黙しロストしたことの説明がつかん」


「おう、だからそこで二機持ち込んだって話が重要になってくるんだ。ま、クリムゾンメテオの想像もあながち間違っちゃいないぜ、構造自体はフルアーマーシステムと一緒だからな。その上で、外装だけでも一つの機体として成立するようにした。中をがらんどうにして、別の小さな機体がすっぽり収まるようにしてな」


ヤルダバルトがコンソールウィンドウを手元に呼び出してそれを操作すると、噴水の縁の上に十センチほどの大きさのプラモデルが現れた。つい先程の戦いでヤルダバルトが使っていた黒い機体だ。ヤルダバルトがさらにコンソールを操作すると、そのプラモデルは背中のバーニアから光を放ち、真っ直ぐにヤルダバルトの方へと飛んで来る。プレイヤーの操作に反応して動いていることは、それが追加パーツの集まりなどではなく、一つの機体として成立していることの証であった。飛んできたプラモデルをヤルダバルトが開いて見せると、その中には小さな機体が一つ入るくらいの空間があった。


「ま、見ての通りだ。この外装にもちゃんとジェネレーターやコックピットを組み込んで単体でも動くようにした。そんでさっき俺はこの中にあの白い機体を仕込んだ上で、中身の白い方の電源は切ったまま戦ってた訳だ。複座コックピットシステムやフルアーマーシステムを使えば、単一機体の扱いにすることができるし、中身の方のコックピットから外装になってる機体の制御もできる」


「なるほどな。では先程お前が自爆させたのは外装となっている機体のみで、内側の機体は電源を切ったままロストした外装の中でずっと機をうかがっていたということか」


「ああ、そういうこったぜクリムゾンメテオ。このゲームの機体反応はジェネレータのものを拾って表示してるからな、内部機体のジェネレータは元々オフのまんま外装機体のジェネレータをオシャカにしちまえば、傍目からは完全にロストしたように見えるって訳だ」


「しかしなヤルダバルト、まだ解せんことがあるぞ。そのギミックなら普通に戦って撃墜されたとしても機能するだろう、なぜわざわざ初手自爆なんて真似をした?」


「あー、それはな……まあはっきり言っちまえばこの機体じゃ普通に戦うこと自体無理なんだわ。つまるところこの機体は一機分のリソースを二機に分けて運用してる訳でな、武器や装備に使う分の重量もコックピットやらジェネレータやら各種のセンサーユニットやら内部の機体に装備したバーニアやらに使ってる。結果としてそれだけで機体の重量がクソ重たくなっちまって、最終的に積み込めた武装は外装機体の両腕にレーザーバルカンと、内部機体にさっき使ったソード一本だけしかねぇ。外装機体は中に空洞を作った分パワー自体が落ちちまってるのさ」


「そうは言うがな……機体重量自体は一機分と同じに見えるぞ?」


「そりゃあそれぞれの機体は普通のよりは軽くなっちゃいるけど、結局は機体二つ分の重量を一機単独で無理矢理動かすことになってるから、合体形態の機体の推力じゃどうしても動きが鈍くなるんだよ。当然外装機体で戦うとなるとレーザーバルカンと殴る蹴る以外にやれることないし、それで鈍い動きをしてちゃ中に何かしら仕込んでるってバレバレだろ? だからこの機体とギミックを活かすにはまず初手自爆からの初見殺し以外になかったって訳だ」


「はぁ!? 何だよそりゃ!」


ヤルダバルトの言葉を聞いて素っ頓狂な声を上げたのは、蒼白の機体のパイロットだった。


「それじゃあお前、まともな攻撃能力もねぇし運動性能も最悪、何ならフルアーマーシステムの強みの継戦能力も貧弱な攻撃性能で機能してないただの欠陥機じゃねーか!」


声を荒げた蒼白の機体のパイロットの言葉にクリムゾンメテオが割り込む。


「ああ、そうだな。私もそう思う。そしてその欠陥機に敗北した間抜けが君達だ」


「お、おいおいクリムゾンメテオ、そこまで言うことじゃねーだろ……」


「いいや、こればかりははっきりと言わせてもらうぞヤルダバルト。それがこの二人のためだ。さて、君達は対戦前のやりとりを覚えているな? 私は覚えている、君はあの時はっきりと、私の相方であるヤルダバルトのことを足手まといと言った」


「えっと、それはその……はい」


「それが結果はどうだ? そのどうでもいい相方に君達は敗北し、君は不意の一撃でコックピットを貫かれている。しかも自他共に認める欠陥機を使ってだ」


「いや、クリムゾンメテオはああ言ってるけどまともに取り合わないでくれ。ありゃ全部コイツのトンデモ回避能力ありきで御膳立てしてくれただけのことで……」


「ヤルダバルト、今お前は黙っていろ。話を戻すぞ、君達は結果としてその格下扱いしている相手にいいようにされた訳だ。随分と滑稽な話じゃないか、なぁ? 私が相手ならその相方が誰でもいいと言っておいてこれだ。これに懲りたら戦う前から相手を侮るようなことなどしないことだ、でなければまた先程と同じことを繰り返すことになる。今回のことはいい勉強になっただろう?」


黙り込んだまま俯く対戦相手の二人。見るからに意気消沈する彼らの肩をポンと叩きながらクリムゾンメテオは続けた。


「今日は終いだが、いずれまたやろう。今度は互いに慢心せず、に全力でだ。君達も望むところだろう?」


「は、はい! 今日はありがとうございました!」


「最終的にヤルダバルトが奇襲するまでは私とまともに渡り合えていたからな、君達は実に筋がいい。腕を上げた後での再戦を楽しみにしているさ」


クリムゾンメテオのその言葉を聞いて、対戦相手となっていた二人は深々とお辞儀をしてからコンソールウィンドウを呼び出し、それを操作して光と共にこの場から消え去った。それを確認すると、ヤルダバルトとクリムゾンメテオの二人は再びクランハウスへとワープした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る