1-3 日常 その3
薄暗く金属質な部屋の中。中央に置かれたテーブル状の巨大なモニターの光に照らされ、ヤルダバルトとクリムゾンメテオは待っていた。このゲームではブリーフィングルームとも呼ばれるこの場所で、クローズドルームマッチに参加するプレイヤーと合流する流れが主流だ。クローズドルームマッチで対戦を行う場合、戦闘のルール、どのフィールドで戦うかなどの設定をこの部屋で行うことができる。二人は対戦のルールを設定しつつ、マッチングに応じる対戦相手のプレイヤーを募集していた。十分ほど経った頃、電子的な通知音と共に光の柱から二人の男がブリーフィングルームに現れた。男達はクリムゾンメテオの姿を確認するとすぐさまそちらの方へと駆け寄った。
「クリムゾンメテオさん……! 本物だ!」
「私は未だ自分の偽者に出会ったことはないがね。よろしく頼むよ。彼は私の相方をやってくれるヤルダバルトだ」
「よろしくどうぞー」
ヤルダバルトは軽妙に手を挙げて対戦相手となる二人に挨拶をしたが、二人は会釈をするや否やすぐさまクリムゾンメテオの方へ向き直ってしまった。
「よろしくお願いします、クリムゾンメテオさん! 『ラスト・ブレード』筆頭の実力、存分に見せてもらいます!」
「期待してくれるのは嬉しいが、募集文にも書いたように今回は新機体の慣らしが目的だ。どこまでやれるものかは未知数だぞ? まあ、だからと言って負けてやる気は毛頭ない。君達も全力で来るといい。」
「はい! 二対一だとしても容赦しませんよ!」
「……ん? 待て、どういう意味だ」
「いやだってソイツ誰がどう見たってゴミカスうんちの雑魚ちんちんじゃないですか。ランクマッチのランクも最高のマスターとかその一個下のプラチナランクならともかく、下から二番目のシルバーランクしか行ってないのなら足手まといにしかならないでしょう」
その言葉を聞きクリムゾンメテオとヤルダバルトは呆気に取られる。クリムゾンメテオの顔から表情が消えていることに気が付かず、彼はそのまま話を続ける。
「どうせ知り合いだから相方にしてくれとかって無理に頼み込まれたんじゃないですか? クリムゾンメテオさんもイチイチそういうの相手にしないほうがいいですよ。ま、クリムゾンメテオさんと対戦できるのなら相方が誰だとしても別にどうでもいいんで。じゃあ、オレ達出撃準備に入ります! よろしくお願いします!」
そう言い残して対戦相手は二人共光の柱の中へと消えていった。残されたクリムゾンメテオとヤルダバルトとの間に言葉は無く、ただブリーフィングルームの機材が放つ機械音だけが響いている。いたたまれなくなったのか、ヤルダバルトがクリムゾンメテオへと声をかける。
「あー、俺は気にしてないから、な? 俺達もそろそろ出撃準備に入ろうぜ」
「……ヤルダバルト」
「どうしたよ、相棒」
「この戦い、お前は一番実用性の無い機体を出せ。私が全部お膳立てしてやる」
「あー、いいけどよ……その前にちょっと頭冷やしとけ、な?」
「なに、心配せずとも頭は冷えているさ」
――そうして戦いは始まった。紅い機体は敵の放つ弾幕を一切の反撃すらせずに最小限の動きで攻撃を回避し、敵はその陣形を崩さずに射撃で相手を近づけないようにしている。だがその実、紅い機体は動きで敵の位置を誘導していた。その時、今まで沈黙を保っていた黒い機体が緑の機体の背後から迫り、離れることがないようにしっかりと組み付く。接触回線により敵機との通信が繋がる。
「オイ! いきなり出てきて攻撃もしないで一体どういうつもりなんだ!」
「簡単なこったよ。任務了解……自爆する……ってなぁ!」
「あっ、テメ――
通信越しの声は爆発音によってさえぎられる。黒い機体は沈黙し、緑の機体はその各所から火花を散らしていた。蒼白の機体が緑の機体のそばへと近寄り、通信を繋ぐ。
「大丈夫か?」
「耐久は半分残っている。まだ動けるはずだ」
動きを止めていた二機の直上からビームが二発放たれる。紅い機体がやってきたことを察知し、両機は散開して戦いを続行する。猛スピードで右へ左へと変幻自在に動きを変えながら手持ちのライフルでビームを撃つ紅い機体。蒼白の機体は難なくそれを回避するが、緑の機体はかわしきれずに被弾した。紅い機体のパイロット、クリムゾンメテオがつぶやく。
「動きが先程と比べてニブいな。ふむ」
彼は目の前のモニターをタッチし、緑の機体を拡大表示すると、その機体の背中に装着されているバーニアの半分が先程の爆発でひしゃげて使い物にならなくなっていた。クリムゾンメテオはそれを確認し、ニヤリと笑みを浮かべる。
「流石はヤルダバルトだ、いい仕事をする」
蒼白の機体も緑の機体の不調に気がついたらしく、紅い機体へと接近しながらライフルのビームを撃ち込む。一方で緑の機体もその場から動かずに肩や脚部の装甲を開き、その中に仕込まれたミサイルを放つ。動きがにぶい緑の機体は固定砲台と割り切り援護に徹し、蒼白の機体がその盾になりつつ紅い機体へ迫る。
「ふむ、中々機転も効くらしい。だが、それだけで落ちてはやれんな」
紅い機体が蒼白の機体へと急接近し、その頭部にライフルの銃口を突きつける。蒼白の機体はすぐさま腰に差した長剣に手をかけ、そのまま横なぎに一閃した。しかし、その攻撃は空を切る。それどころか蒼白の機体の視界から紅い機体は消えていた。クリムゾンメテオの狙いは他にある。
蒼白の機体が振り返ると、一際大きな爆発の中から紅い機体が現れた。蒼白の機体のパイロットはモニターを確認したが、僚機の反応は既に無く、ロストと表示されている。今この戦場で動いている機体はたったの二機。蒼白の機体のパイロットが震える声で呟く。
「ついに一騎打ち……あの、クリムゾンメテオと……ええい、クソッ! やってやる! やってやるぞ!」
蒼白の機体は両目を赤く輝かせながら何発もビームを乱射している。対する紅い機体は緑に光るカメラアイの残像を残しながら、何度も鋭角に曲がる軌道を描いてその全てを回避していく。
今、より手数を多く攻撃しているのは蒼白の機体だが、追い込んでいるのは紅い機体だ。蒼白の機体が肩に備え付けられたキャノン砲を放ちつつ、両手でライフルを握り、絶え間なく弾幕を紅い機体へ浴びせる。一方で紅い機体はそれを気にするような素振りもなく、最低限の動きだけで蒼白の機体へと迫っていく。二機は未だ戦況の動かない膠着状態続け、沈黙する黒い機体が漂う辺りへと近づいていく。
紅い機体は一気に蒼白の機体へと接近すると、加速した勢いを乗せたまま機体腹部に蹴りつける。追撃とばかりに紅い機体が構え直したライフルからビームを放つも、蒼白の機体はその左手に据え付けられているシールドでその全てを受け止めていく。ビーム射出後の隙目掛けて蒼白の機体が奇襲を仕掛けようと構えた。
その瞬間、蒼白の機体の腹部から光の剣が生えた。その背後には他の機体と比べて一回り小さな純白の機体が、蒼白の機体を背中から突き刺している。接触回線によって二機の間に通信が繋がる。
「何だよそれ、何で落ちたヤツが動いてるんだよ! ダメじゃないか落ちたヤツが出てきちゃ!」
「悪いな、死んだフリってヤツだ。ま、運が悪かったと思って諦めてくれ」
爆発する蒼白の機体。その光が消え、全てのモニターに無機質な機械音声と共にデジタル文字が表示された。
「BATTLE FINISHED」
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