第4話
「やあっ! おりゃっ! わははは! おらおらおらっ」
「ちょっ、それ反則反則反則」
須東の傘が僕の腕をペシペシと打つ。着込んでいるので痛くはないが、僕は怖くてどうすることもできない。
今日の須東は何やらゲームのキャラクターに影響されているらしい。それで多分連撃のスキルとかがあるんだろう。須東の顔は爽やかにキマっていて、僕をしばくことに迷いがなかった。
「ギブギブ! 目とかに刺さったらどうすんだよ」
「ええ〜? そんなことしないって」
「なるかもしれないじゃんか」
「お母さんみたいなこと言うのな」
「お母さんの言うことちゃんと聞けよ、おまえ」
僕はそう諭すが、須東はただ僕がもう戦うつもりがないらしいということに萎えて、つまらなさそうに傘を下ろした。まだ手首にかけて振り回してはいるが、随分マシになったとホッとする。
「センゴも知らねーの、木坂、じゃあ何なら知ってんだよー」
「……センゴって何。僕のお母さん、マンガとかそういうの買ってくれないから」
「えーそんじゃあオレんち来たらオレの貸してやるからさあ!」
「ごめん、家に遊びに行くのも駄目って……」
「はあ〜〜〜???」
須東はまるで僕が悪いみたいに眉を寄せて、ぱっかーんとアホみたいに口を開いた。アホみたいなのは元からか。年じゅう短パンで来てるし。
須東は、仲の良い奴らが全員インフルエンザで休みになったので、通学路が共通しているという理由だけで僕みたいなのに構っているのだった。可哀想に。僕はあらゆるコンテンツを禁止されているうえ運動神経が悪い、ガリ勉で話が分からないと遠ざけられている、筋金入りのボッチだ。
まあ、実際のところ小学生の娯楽に興味がないだけで、家のPCには僕の自由な領域があるのだが。人付き合いを円滑にする理由もなかった。
「じゃあ何ならできんだよー」
「えっと……本、読むとか」
「マンガ以外の本? 何?」
「えっとね」
僕はようやく自分の話ができるのが嬉しくて、ランドセルを下ろして抱き抱えて本を抜き出した。
「レイチェル・カーソンの、『沈黙の春』」
「れい……?」
「こういうのは勉強になるからって、お母さん買ってくれるんだ」
僕はそう言いながら中を捲ってみせる。須東は興味がなさそうだった。求められていないのが分かって、そそくさとランドセルに戻す。
「お前頭いいよなー。ベンキョーになるから本読んでんの?」
「いや?」
「好きでそんなん読んでんの? 意味分かんの?」
「──僕、憧れてる人がいるから」
僕はちょっと俯いて閉口した。この話を詳しくして良かったことは一回もない。失敗を繰り返すうちに僕は失敗の気配を感じ取れるようになっていたし、最近は処世術も身につけていた。
「須東はファンタジーの、魔王を倒す勇者になりたいんだろ? 僕はSFの世界を救う研究者になりたいってこと」
「エスエフ? って何? エフエフじゃなくて?」
「…………」
僕はため息を吐いた。これだから子供は。
ただ、僕は天才児と自惚れてもよかったかもしれない状況だったけど、決してそうはならなかった。
……なぜなら僕の精神の土台になっているのは、前世の記憶であって、努力なしに手に入ったものではなかったからだ。
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