第5話
「ういっす、先輩」
「うす。あー、髪型変わってる。可愛い」
「そうでしょ? このためにおとといお月見イベント走ったんよ」
「ああ、あの不評だった? おとといまででしたっけ。走ったって……ちゃんと寝ました?」
「うはは、さすがに二時くらいにはね」
「遅!」
今、僕の目の前には、身長140cmくらいの水色髪の女の子がいる。アニメ顔に非現実的なまでのロングヘア。そしておじさんの声で喋っている。うん、それでいいんだ。なぜならここは非現実だから。
僕たちがいるのはいたって普通のボロアパートの屋上だ。アメリカの郊外みたいな街並みが見渡せる。このゲームでは好きな土地を買って家を建てて拠点にできるので、僕は平和なここで仲の良い彼のお隣さんをやらせてもらっているのだ。
ここまでボリュームのあるVRゲームがリリースされたのは、市場が発達したおかげだ。
彼のユーザーネームは「オイスターにかわ」。僕は「シェル先輩」。海産繋がりで声をかける相手に選んだのが出会いだったが、オイにかさんは英語に弱くてshellが貝殻っていう意味なことを知らなかったし、多分また忘れている。まあ、僕のシェルの由来は元々英語じゃないんだけども、それはまた別な話だ。
ところでオイにかさんは当然のようにバ美肉しておめかししている。この世界ではそれが普通なので、たまに自分の方が間違っているような気がしてくるのだが、僕は「シェル先輩」である以上バ美肉するつもりはないとここに宣言しておく。
「先輩は早速新エリア行くの?」
このゲームのプレイにおいてはオイにかさんの方が先輩なのだが、彼は僕のことを先輩と呼ぶ。満更でもない。
「そう、あのエリアやるために始めたから」
「好きなんだねえ〜、SFモチーフ」
そう、このゲームの新エリアはSFモチーフ──と、いうより。
実を言うと、僕が趣味で覚えた3Dモデリング技術を買われて開発に携わった、僕の前世の故郷、ハールバンを再現したエリアだった。
昔は天才研究者だった前世を今世と混同して、そのロールプレイをしていた(友達がいなかったのはこのせいだ)。次の時期は、自分はシェルウェスの無念を晴らすために生まれてきたのだと勘違いして、世界を滅亡させる原因を調べ回って陰謀論やスピリチュアルにまで詳しい異常者になった。今は……シェルウェスのことは、前世ではあるが別人だと思っている。
僕は単なる陰キャで帰宅部の、ちょっとCGがいじれるだけのVRオタクだ。
「オイにかさんは来る?」
「もちろん! 先輩がはしゃいでたから、逆に私は情報見ないようにしてたんだよね。ついてく気満々だった」
「マジすか、嬉しいな。えっと、アンダーセンドの北の封鎖されてた通路から行けるんすよ」
「え! あそこか。うわ〜アツいね!」
センドは中盤に通る栄えた街で、アンダーセンドはその地下に発展した、闇市などが並ぶアナーキーな場所だ。ゲーム内のハールバン──マップ名は「ハールセンド」。
僕はメニューからワープゲートを開いて、菱形の中が白く光るそれに慣れた操作で飛び込んだ。
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世界はきっと滅びない。 三科享史 @YC_0500
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