第3話 空白区画
連絡通路の終端で、床のマーキングが途切れていた。ボルカ・トラファルガーは端末で現在位置を再取得する。座標は取得されるが、区画番号が表示されない。管理柱は設置されていない。設計図面上では、この区間は連結されているが、工程表には項目がない。
照明は点灯している。照度は基準値の下限。非常灯は設置されているが、番号表示がない。壁面の配管は通過しているが、識別色が途中で省略されている。これは損耗ではなく、最初から塗装されていない。端末のカメラで撮影し、記録する。分類は「空白」。
空白区画は管理されていないが、削除されてもいない。削除対象とするには、用途の確定と危険評価が必要になる。用途が確定していないため、削除手続きは開始されていない。ボルカは規約文書の該当箇所を呼び出し、条文番号のみを確認する。読み上げは行わない。
床面に設置されたセンサーは最小構成。通過の有無のみを検知し、方向や速度は記録しない。ログは一行で、時刻と有無だけが並ぶ。値が欠落している行があるが、欠落として扱われていない。空白として保存されている。
ボルカは歩行を再開する。足音が反響し、天井高が一定であることが分かる。壁面に設置された手すりは途中で途切れている。固定具は残っているが、部材が取り付けられていない。外れた形跡はない。未設置のまま残されている。
換気口の前で停止する。格子の奥は暗く、内部構造は確認できない。吸気は行われている。流量は測定可能で、数値は安定している。接続先は表示されない。接続情報が空欄のまま保持されている。
空白区画の中央付近で、通過ログの更新が入る。時刻は現在時刻と一致しない。数分前の値が遅れて反映されている。仕様書には、空白区画ではログの遅延が起こり得ると記載されている。原因の特定は不要とされている。
区画の端に、封鎖用シャッターの枠がある。シャッター本体は取り付けられていない。枠番号は存在し、管理台帳にも登録されている。未設置の理由は記載されていない。ボルカは枠番号を記録し、写真を添付する。
点検工程の最終項目は「存在確認」。対象は設備のみ。人は対象に含まれていない。ボルカは端末で工程完了を入力する。空白区画のとして分類し、管理継続を指定する。
次工程への移動指示が表示される。通行記録は継続中。空白は削除されず、管理からも外れない。ボルカは区画を抜け、連絡通路へと移動した。
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