第2話 ログの増加
地下七十三層への連絡通路は、前回の点検記録と同一の状態を保っていた。ボルカ・トラファルガーは管理柱に端末を接続し、当該区画の通過ログを呼び出す。表示された時系列に、増加が見られた。数値は緩やかだが、一定期間での平均との差は基準線を越えている。
通過者の属性は表示されない。識別子は匿名化され、個体情報は残らない。通過時刻とゲート番号のみが残る。これは設計時からの仕様であり、例外はない。ボルカは増加幅を確認し、期間を指定して再表示する。ピークはない。連続性もない。散発的な増加が積み重なっている。
規約文書を参照する。廃棄区画における通過ログの変動は、想定内事象として分類されている。理由の特定は不要。上限値を越えない限り、異常とは判定されない。ボルカは該当条項番号を入力し、確認済みのチェックを入れる。
通路に出る。床面の摩耗は前回と同程度。壁面の擦過痕に変化なし。ゲートの開閉機構を目視で確認する。センサーの応答時間を測定し、数値を記録。遅延はない。ゲートを通過すると、端末に自身のログが追加される。通過者数のカウントが一つ増える。
空調ユニットの前で停止。吸気量と排気量の差分を確認。微小な変動があるが、基準内。フィルターの封止番号は前回と一致している。封止の破損なし。ユニットの稼働音は一定。音圧レベルを測定し、記録する。
管理柱の補助端末で、過去三回分の点検記録を並列表示する。通過ログの増加は今回が初めてではない。前々回にも同様の傾向があり、その際も異常判定は出ていない。対応欄は空白のまま維持されている。記入の義務はない。
区画の端に設置された監視カメラは稼働していない。これは故障ではなく、仕様である。映像記録は保存されず、起動もしない。代わりに動線センサーが設置され、通過のみを記録する。設計された管理方式の一部として、そのまま維持されている。
ボルカは床のマーキングに沿って歩き、各ゲートの番号を読み上げる。番号とログを照合し、不一致がないことを確認する。増加しているのは特定のゲートではなく、区画全体に分散している。
点検工程の終盤で、ログ増加についての備考欄が表示される。入力は任意。ボルカは数値のみを転記し、評価欄を空欄のままにする。規約上、評価は不要であり、判断は求められていない。
通行記録を終了せず、次工程への移動指示を受け取る。時間は計画内。区画の状態は変更されていない。管理は継続され、ログは更新される。ボルカは通路を進み、次の区画へ移動した。
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