廃棄区画点検記録係ボルカ

zakuro

第1話 点検開始

ボルカ・トラファルガーは地上管理棟の第三昇降口から地下へ降りた。入構認証にカードを通し、指紋と網膜を順に照合する。表示灯が切り替わり、昇降機の扉が閉じる。下降速度は一定に保たれ、階層番号が減っていく。地下七十二層で停止。扉が開き、管理通路の気流が入る。


通路幅は規格寸法。床面は合成材、摩耗率は基準内。壁面に埋設された配管とケーブルは識別色で束ねられている。照度は点検基準値。照明の間隔、非常灯の位置、退避矢印の向き。視認確認を行い、端末にチェックを入れる。通路端の防火シャッターは開状態、開閉履歴に異常なし。


廃棄区画へ向かう分岐で、隔壁番号を読み取る。削除済みではないが使用停止の表示。管理は継続、用途は未設定。ここからは点検員のみが通行可能となる。通行記録の開始を端末で宣言し、タイムスタンプを同期する。


空調音が低くなる。床の継ぎ目が粗くなり、保守頻度が下がっていることが分かる。センサーの配置密度も低下している。設計段階で想定された危険は、表示板に要約されている。高圧、低温、化学残留。数値は基準内。警告灯は点灯していない。


点検ルートの第一工程。換気口のフィルターを外し、付着物を確認。重量、色、粒径。規定の範囲。写真を撮影し、端末に添付する。フィルターを戻し、封止を確認。封止番号を読み上げ、記録する。


次に床下点検口。ロックを解除し、蓋を持ち上げる。内部は空洞。配線は止められている。水分計の数値を読む。問題なし。蓋を戻し、ロックをかける。工具を戻し、数量を確認。


廃棄区画の中央に設けられた管理柱に近づく。表示面には当該区画の概要が出る。管理主体、最終更新日、次回点検予定。削除の予定は未定。管理は継続。空白の項目が複数あるが、欠落として扱われていない。記入欄は存在し、値が入っていない。


通過ゲートを一つ越える。ゲートは開閉を記録するのみで、滞留を制限しない。通過時刻が自動で記録される。ボルカは歩数を一定に保ち、ルートに沿って移動する。壁面の番号と床のマーキングを照合し、現在位置を確認。


配電盤の前で停止。封印は有効。開放せず、外観のみを確認。振動センサーの値を読み、基準内であることを記録。音響センサーに反応なし。端末にチェックを入れる。


廃棄区画は使用されていないが、管理から外れていない。削除されていないため、点検工程は省略されない。設計された危険は管理によって隔離され、手順は文書化されている。ボルカは文書番号を確認し、該当工程を順に消化する。


工程の終端で、次工程への移動指示が表示される。時間は計画通り。異常判定は出ていない。通行記録は継続中。ボルカは管理柱に最終確認を入力し、移動を再開した。

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