第5話 夜明けのステラ・クライシス

 二千の軍勢を消し飛ばした蒼き衝撃。その余波が収まる間もなく、平原の空間が歪んだ。

「……四天王を、羽虫のように払い落としたか」

 ​地を揺らす重低音とともに、漆黒の玉座が虚空から現れる。そこに座るは、万物の終焉を司る者――魔王ゼノン。

 彼が立ち上がるだけで、カイが無理やり引き寄せた『偽りの夜』が震え、ひび割れていく。圧倒的な魔王の威圧感。だが、カイは不敵に笑った。

 ​「この速度なら……魔王、あんたにも届く」

 ​時計の針は深夜零時を回った。

 空を見上げれば、群青の闇の中に、ひときわ強く瞬く「深夜の一番星」。

『星天の裁定者』が、真の極致へと至る刻(とき)が来た。


 ​「不遜な。光の速さにすら届かぬ加速で、余を討つと?」

 魔王が指を弾く。

 瞬間、カイの周囲に数千の漆黒の槍が、回避不能の密度で出現し、同時に射出された。

 ​だが、カイの双剣はすでにそのすべてを「過去」へと追い落としていた。

 一撃。十撃。百撃。

 魔王の槍を斬るたびに、カイの身体はさらなる加速を上乗せしていく。

 一分間に数万回の斬撃。もはや『動いている』という概念すら消え、カイは戦場のあらゆる場所に『同時に存在』していた。

 ​「……ッ、何だと!?」

 魔王の瞳が驚愕に染まる。

 カイのスピードは、ついに「時間」の壁すらも削り取り始めていた。


 ​斬撃のたびに、カイの体力は全快し、精神は星の冷徹さを帯びていく。

 魔王が放つ防壁も、空間を断絶する魔術も、加速し続けるカイの双剣の前では、止まっている障壁と変わらない。

 ​「これで、最後だ……!」

 ​カイの身体が、純粋な青い光の粒子へと変わる。

 双剣が描く軌跡は、夜空を走る銀河そのもの。

 二千の雑兵、四天王、そして魔王――そのすべてを斬り伏せるための「無限の加速」が、一点に集束する。

 ​「ミッドナイト・ステラ・クライシス――終焉(オメガ)」

 ​深夜の一番星が最も強く輝いたその瞬間。

 平原全体を、銀河の爆発を思わせる蒼い光が呑み込んだ。

 魔王の叫びすら届かぬ、音を超え、光を超え、因果を超えた一撃。

 魔王の心臓を、星の刃が貫いた。


 ​「……見事だ、人の子よ」

 魔王の巨体が光の塵となって崩れ落ちていく。

 それと同時に、カイが作り出した「星域(フィールド)」もまた、静かに溶けていった。

 ​東の地平線が、薄らと白み始める。

 一番星が朝の光に溶けていく中、カイは剣を鞘に収めた。

 あれほどの激闘を終えたというのに、回復効果のおかげで、その身には傷一つ、疲れ一つ残っていない。

 ​「……あ。太陽だ」

 ​昇りゆく朝日が、カイの顔を照らす。

 昼間の『重力』が戻ってくる感覚がある。だが、不思議と以前のような絶望感はなかった。

 最強の敵を倒し、夜を駆け抜けた達成感。そして、この『神速』を知った自分の魂には、もはや昼も夜も関係ない、確かな力が宿っている。

 ​「さて……次は、どこへ行こうか」

 ​朝霧の向こう側。

 かつて自分を捨てた者たちも、この光をどこかで見上げているのだろう。

 だがカイはもう、後ろを振り返らない。

 夜明けの光の中、神速の剣士は、新しい世界へと第一歩を踏み出した。


 ​(完)

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星葬の二重奏(ミッドナイト・デュオ)〜無能と蔑まれた俺の双剣が、夜の終わりに世界を加速させる〜 @SsRei

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