第4話 光速の境界線

 ​「行け! 殺せ! 塵一つ残すな!」

 魔王軍四天王フェルナンドの怒号とともに、二千の魔兵が地鳴りを立てて押し寄せる。

 ​だが、蒼き「星域(フィールド)」の中心に立つカイは、静かに双剣を構えた。

 昼間の鈍重さは微塵もない。細胞のひとつひとつが、星の光を浴びて沸騰している。

 ​「……まずは一撃」

 ​最前列の魔兵が剣を振り下ろすより速く、カイの姿がブレた。

 ガキィィィン!

 鋭い金属音が響く。魔兵の胸鎧を切り裂いた瞬間、カイの脳内に「加速」のシグナルが灯った。

 ​「――二撃。三撃。……十撃」

 ​斬るたびに、周囲の景色がゆっくりと沈んでいく。

 加速が、加速を呼ぶ。

 敵を斬れば斬るほど、カイの神経系は研ぎ澄まされ、筋力は爆発的に跳ね上がる。

 二千の軍勢が、まるで止まった彫像の群れに見え始めた。


 ​「なっ、何が起きている!? 報告しろ!」

 フェルナンドが椅子から立ち上がる。

 彼の目に見えるのは、自身の軍勢が次々と、目にも止まらぬ「青い閃光」に弾き飛ばされ、紙屑のようにバラバラになっていく光景だった。

 ​「ひ、ひぃ! 見えません! 敵がどこに――ぎゃあぁぁ!」

 ​悲鳴すら追いつかない。

 カイのスピードは、もはや音速を突破していた。

 彼が通り過ぎた後には、衝撃波(ソニックブーム)による真空の道ができ、魔兵たちは斬られると同時に、空気の壁に叩きつけられて粉砕される。

 ​『ミッドナイト・ステラ・クライシス』――その真価は、終わりなき上昇(ビルドアップ)。

 斬る対象が二千もいるこの戦場は、カイにとって「無限にスピードを上げるための滑走路」でしかなかった。

 ​「五百撃……。まだだ、まだ足りない」


 ​千撃を超えた頃、カイの世界から音すら消えた。

 自分の鼓動と、双剣が星を刻む音だけが響く。

 斬るたびに傷が癒え、全快の状態でさらに加速する。

 ​カイの姿はもはや一筋の線ですらない。

 戦場全体に網の目のように張り巡らされた「青い光の糸」そのものとなっていた。

 ​「……バカな……! 物理限界を超えているだと!?」

 フェルナンドが恐怖に顔を歪ませ、自慢の魔力を練り上げる。「断絶」の魔法を放とうとしたが、その指が動くよりも早く、カイは彼の目の前に現れていた。

 ​「……あんたが、一番強いんだろ?」

 ​カイの言葉は、フェルナンドの鼓膜に届く前に、彼の意識を置き去りにした。

 極限まで加速したカイにとって、四天王の動きですら、止まった時計の針に等しい。


 ​最後の一撃。

 二千体を切り刻んだ全エネルギーを一点に凝縮し、カイは双剣を交差させた。

 青い爆光が平原を飲み込む。

 ​光が収まったとき、そこには広大な「空白」があった。

 二千の魔王軍、そして四天王の姿はどこにもない。

 ただ、地面には数万の斬撃の痕跡が、巨大な幾何学模様のように刻まれているだけだった。

 ​

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