第2話 置き去りの残光

 翌日の昼間。カイは再び、あの『泥の中にいるような重圧』の中にいた。

 街の広場で冒険者たちが活気に沸く中、カイは壁に寄りかかり、荒い息をつく。

(……やっぱり、陽が昇っている間はこのザマか)

 ​昨夜のあの神速、あの万能感は夢だったのかと疑いたくなる。だが、腰に差した二振りの双剣は、昼間でも鈍く青い輝きを帯びていた。

 そこへ、聞き覚えのある下品な笑い声が近づいてくる。


 ​「なんだ、まだ街にいたのか。死に損ないのガラクタ野郎が」

 ​元パーティ『太陽の牙』のリーダー、ライオスだ。

 彼らは今から、昨夜カイが密かに倒したはずの『ダークウルフ』の討伐任務に向かうところだった。

 ​「おいライオス、構うなよ。汚い鈍足がうつるぜ」

 仲間たちの嘲笑を背に、彼らは意気揚々と森へ向かっていった。カイは拳を握りしめ、ただ静かに陽が沈むのを待った。


 ​夕闇が街を包み、一番星が瞬く。

 その瞬間、カイの全身を縛っていた見えない鎖が、ガラスのように砕け散った。

 ​「……来た。夜だ」

 ​カイは風のように森へ向かった。

 目的は一つ。昨夜の力が本物か確かめること。そして――。

 ​森の奥では、『太陽の牙』が窮地に立たされていた。


「嘘だろ……なんでこんなに、数が多いんだ……っ!」

 彼らが狙っていたのは単体のウルフではなかった。夜になり活性化した、数十頭の群れ。

 ライオスの大剣は空を切り、仲間たちは傷つき、絶望に顔を歪ませていた。

 ​「助け……助けてくれ!」

 ​その悲鳴に応えるように、頭上の枝から蒼い火花が舞い降りた。


 ​「悪いな。あんたたちが遅すぎるから、手伝いに来たよ」

 ​静かな声とともに、カイが着地する。

「カ、カイ!? お前、何をしに――」

 ライオスの言葉が終わるより先に、カイの姿が消えた。

 ​一閃。

 先頭のウルフの首が飛ぶ。

 二閃、三閃。

 斬撃を重ねるごとに、カイの周囲に青い雷鳴のようなエフェクトが激しさを増していく。

 ​「あ、ああ……見えない! 速すぎる!」

 ​ライオスたちは目を剥いた。

 カイが一度動くたびに、空間に青い「星の軌跡」が焼き付いていく。


 一撃ごとに加速し、一撃ごとに傷を癒やす。

 十撃を超えた頃には、カイの動きはもはや一筋の「青い流星」と化し、ウルフたちは反撃の暇もなく、次々と星の塵へと変わっていった。


 数分後。

 あれほどいた魔獣の群れは一掃され、森には静寂と、宙に舞う青い燐光だけが残された。

 カイは一滴の汗もかかず、平然と双剣を納める。

 ​「……これ、お前たちの獲物だったよな。勝手に狩って悪かった」

 ​カイは振り返ることもなく、夜の闇へと歩き出す。


「ま、待て! カイ! 今のは何だ!? その力があれば、俺たちのパーティは――」

 ライオスが縋るように手を伸ばすが、カイの足取りは、もはや彼らが一生かかっても追いつけないほどに速く、軽やかだった。

 ​「悪いけど、俺は夜が忙しいんだ。……さよなら」

 ​夜風に乗って消えたその言葉に、ライオスたちはただ、自分たちが何を捨ててしまったのかを悟り、膝をつくしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る