レプラスのある世界で
佐々木厭世
第1話 発端
2035年1月1日 午後10時。
――その夜、世界が揺れた。
「全米が泣いた」だとか「日本中が震撼した」などという大げさな宣伝文句ではなく、
本当に地面そのものが大きく揺れたのだ。
揺れを観測したのは鹿児島県・薩摩半島。
薩摩富士の名で親しまれ、登山客にも観光客にも愛されてきた美しい山――開聞岳。
その山を中心に、最大震度5強が記録された。
だが、その揺れは地震ではなかった。
休火山のはずの開聞岳が噴火したわけでもない。
隕石が落ちてきたのである。
冬の雨が上がったばかりの夜空を裂くようにして、
ひとつの巨大な光が尾を引きながら降りてきた。
光は異様な軌道を描き、やがて山肌の中腹へ一直線に突き刺さる。
直径7メートル。
隕石としては小柄だが、“そのサイズのまま地表に到達する”という時点で異常だった。
激突の瞬間、
開聞岳の山体が一瞬だけ白く光り、
衝撃波が周囲の空気を押し広げ、地面を唸らせた。
薩摩富士のシルエットは崩れ落ち、
山体の大部分が吹き飛び、
新年の穏やかな空気はたちまち混乱と不安にかき消された。
……だが、奇跡的に、死者は一人も出なかった。
“大事に至らなかった理由”はいくつかある。
まず1つは隕石の大きさだ。
直径10メートル級なら広島型原爆に匹敵する破壊エネルギーになるとされているが、
今回は7メートル。
わずか3メートルの差に見えても、被害規模は指数関数的に変わる。
2つ目は、落下地点が山中であったこと。
これが都心部なら、数百人どころか数千人単位の犠牲も十分あった。
そして3つ目は、時間帯だ。
もしこれが早朝だったなら、初日の出を見に登っていた登山客が犠牲になっていた。
しかしその日は夕方から小雨が降りはじめ、
夜の10時には登山客は誰も残っていなかった。
結果――
「山がひとつ吹き飛んだ程度」で済んだ。
……もちろん、それはあくまで“統計上の話”にすぎない。
周辺住民にとっては地獄だった。
衝撃波で窓ガラスが割れ、
空き家の古民家が崩壊し、
近隣のゴルフ場や牧場は、
隕石に放射性物質や未知の危険性がないと確認されるまで営業停止を余儀なくされた。
そしてもうひとつ。
報道されることはなかったが、
現場へ最初に踏み込んだ消防隊員のひとりは、後にこう語っている。
――「爆心地の奥から、脈の音が聞こえたんです。
……あれは“生き物の心臓”みたいでした。」
その奇妙な証言はすぐに握りつぶされ、
公式記録からは消えた。
しかし、隕石がもたらした“異常”はそこで終わりではなかった。
この夜を境に、
医学と人類の倫理は、静かに、確実に、変わっていくことになる。
レプラスのある世界で 佐々木厭世 @sasakiense
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