第5話

椿side


講義が終わり、大学の外を目指してると普段見かけないカメラ機材を持った人たちが居た。



「あっ!居たぞ。すいませーん、少しよろしいでしょうか?」

「……まぁ、少しだけなら平気です」


一瞬のうちに囲まれてしまったので渋々取材に応じる。一刻も早く帰って翔君の看病したいけど、こっちも無視できないな。


「あなたを救いだした、狐の仮面を付けてた男性のことについて何か知りませんか?」

「いやー私たちも疲れていたので、名前を聞くのも忘れてましたね」

「そうですか……それじゃあ配信終了後は特に会話することなく別れたということですか?」

「そういうことになりますね、もうそろそろいいですか、私も用事があるので失礼します」


男性の能力については一つだけ分かってることがある。あれは間違いなくダンジョンの転移トラップが何処にあって何処に繋がるかを理解していた。恩人の能力を勝手に話すなんて恩を仇で返すような行為だし喋らないけど。


周囲から質問を投げかけてくるが、それらを無視して記者の包囲網から抜け出す。


「はぁ……疲れた、百合たちは大丈夫かな」


あの日助けてもらったパーティー仲間を考えると私と同じことになってそう。


「間違いなく、囲まれてるよね」


あとで連絡しようと心に決め、翔君が待ってる家に急ぐ。


「ただいまー翔君、熱は下がった?」


リビングに行くが人の気配一つしない。


「部屋で寝てるのかな?」


翔君の部屋の前まで行きノックするが、部屋からは物音ひとつしない。


「……ごめんね、入るよー」


万が一にも倒れてたら大変なのでドアを開ける。


「えっ……」


布団には彼が着ていた寝巻が置いてあった、隈なく家の中を探すが何処にも見当たらない。


「……何処に行ったの?」


ソファーに座りながら翔君に連絡する。


翔side


「大学の講義は夕方まであるはずだし、それまでに帰れば椿さんにはバレないはず」


スマホで時間を確認しようと思ったが、体調悪すぎてどうやら家に置いてきてしまったらしい。


「まだ、二時ぐらいだし本屋に行く時間ぐらいあるだろ」


俺は学校にも通ってないので時間だけは余るほどある。そのおかげでアニメやラノベにどっぷりハマってしまった。


「おっこの新刊発売されてたんだ」


面白かった小説の新刊が買えたので店を後にした、ほくほく顔で歩いてると路地裏から男女の言い合いが聞こえてきた。興味本位でそちらを見ると、同い年ぐらいの女性が複数の男性に絡まれてた。


「だから……何度も言ってますけど貴方達とは遊べません!」

「えぇーいいじゃん、ねぇー少しだけだから。お願いっ!」

「そうそう、こう見えて俺たち探索者でそこそこ有名だから金も持ってるし楽しいことさせたあげるから来なよ」


これまた、めんどくさい場面に遭遇したな。俺に関係ないから、無視してもいいが新刊買えた嬉しかった気分は霧散してしまった。


「あのーそっちの女性も困ってるみたいだしやめませんか?」


どうせこんなこと言っても辞めるわけないし、早く終わらせたいから逆上して殴りかかってきてほしい。


「あぁ?誰だよお前いまどきヒーローまがいなことしても流行らないぞ」

「あぁーはい、そうですよね。でも悪質なナンパもいまどき流行らないと思いますよ」

「なまいきだな、お前。大人の怖さ思い知らしてやるよ」


軽く煽るとすぐキレて殴りかかってきた。本人たちは有名な探索者とか言ってたから一応注意してたが、こうも鈍いと返ってやりずらい。


「よいっしょ!」


腕を掴み軽く投げると他の男性を巻き込みながら吹っ飛んだ。こうも弱いとさっきの有名探索者すら嘘だと思っちゃうな。


「なっお前たち、なにガキ一人にやられてんだ!」

「そっちのさっきから喚いてる人は来ないの?」

「ガキが俺たちにこんなことしてただで済むと思ってんのか、俺は黒蛇の上位幹部だぞ?」

「あ、あの黒蛇……」


そんな自信満々に答えてるけど、俺は存じ上げない。なんだその中二の男子が作りそうな組織は、名前聞いただけでも少しむず痒いもんな。ただ、後ろにいる女性は黒蛇と聞いて怖がってるし有名なのかもな。


「ふっそんな俺たちに盾突いてどうなるか分か―――がはっ」

「もういいよ、これが共感性羞恥ってやつかぁー」


なんか関係ない俺まで恥ずかしくなっちゃったから、喋ってる途中でつい攻撃してしまった。


「当分起き上がることないと思うから今のうちに逃げようか」

「えっ……そうですね」


俺が話しかけると瞬きを数回してから反応した。


「あの助けていただきありがとうございます!」

「あーそんなに畏まらなくていいよ、ただの腹いせだから。それに……多分だけどあの男性たちより君の方が強かったでしょ?」


ここ半年間で様々な魔物と戦闘したことで、ある程度なら見ただけでどれぐらい強いか分かるようになった。そしてこの女性は年齢にそぐわない実力を持ってるはず。俺が介入したのは本当にただ良かった気分をぶち壊されたからだ。まぁー流石に一般人の女性だったら介入してたけどな。


「それでも助けてくれたのは事実ですし、お礼もしたいので名前聞いてもいいですか?」

「本当に気にしなくていいんだけどな。名前は灰葉翔、呼び方は何でもいいよ」

「翔さんですか、私は東城由奈とうじょうゆなって言います。改めて助けていただきありがとうございます」

「東城さんね、さっきも言ったけど気にしないで」

「お礼の話したいので、ここの近くのカフェに行きませんか?勿論私の奢りなので」

「うん、いいよ」


東城さんに連れられ、おしゃれだが落ち着いた雰囲気が漂う喫茶店にやってきていた。


「私はカフェオレで翔さんは何飲みますか?」

「コーヒーでお願い」


頼んでから席に着き改めて東城さんを見る。ナンパされるだけあって、とても綺麗な顔立ちをしている。ただ、この綺麗な顔立ちをつい最近見た気がする。


「……?私の顔に何かついてますか」

「うん?いやごめん、なんか東城さんに似た顔を最近どっかで見た気がして」

「そうなんですね、世界には自分と同じ顔が数人いるみたいなので可能性はありますね」


そんな世間話を交えながら、お礼は今度の休みの日にショッピング行くことでまとまった。夏服を持ってなかったから丁度いい、女子高生の意見を聞きながら選べるだけでも今日助けたのに対しておつりが返ってくるぐらいだ。


カフェから出たときには、空はすっかり赤み掛かっていて。あと一時間もしないで暗くなるだろう。


「それじゃあ、俺はこっちだからまた」

「はい!土曜日楽しみにしてますね」


スマホを家に忘れていたこともあり、東城さんから電話番号のメモを貰ってから別れた。


「なにか重要なこと忘れてるような?」


このときの俺はすっかり椿さんが家に帰る時間を忘れていた。


家に着き中に入るとリビングに明かりも付けないでソファーに静かに座っていた椿さんに悲鳴を上げたのは言うまでもない。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


面白いと感じてくれたら、★★★評価していただけると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バズった配信の正体が、家にいた居候だった――ランキング一位は、正体を隠して平和を謳歌する しろん @siro001

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画