第4話
今日の話は少し短めです。
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柊椿にとって、ダンジョンとは家族を奪った憎き対象だった。
高校生になるまでは普通に青春して、大学を出てどっかの企業に入って結婚とかする普通の人生を送るんだと根拠もなく思っていた。そうあの時までは―――
真っ赤に燃え広がり辺りから悲鳴やら怒号が聞こえてくる。今も魔物たちが蹂躙していく。毎日『おはよう』を交わしてたおばあさん、私の日常そのものだった顔ぶれが、この瞬間も意味もなく殺されていく。
「お父さんっ!お母さん早く逃げようよ!」
そんなこと出来ないのは、誰の目にも明らかだった。重たい棚がお母さんに倒れるのを見てお父さんが庇ったけど二人とも下半身が挟まって動けなくなってる。
「うっ……早く逃げなさい、ここに居てはお前も火事で死んでしまうぞ!」
「そうよ、仮にこの棚を退かせても怪我した足だと逃げきれないわ」
女子高生の腕でどうにか出来る重さじゃない。理屈では理解している、けれど、それで割り切れるわけなかった。
隣の家から火が燃え移り煙がたちこんでくる、目が痛くなり息がしづらくなる。
「……げほっ!はぁ……はぁ、うぁぁぁぁ!」
それでも棚に指を食い込ませる。爪が割れて、皮が剥けて、血が滲んでも、ビクともしない。
「……もう十分だ、私たちの分まで幸せに生きてくれ」
「椿は可愛いくていい子だもの……きっといい男捕まえられるわ」
優しい言葉のはずなのに、私には最後のお別れを伝えられてる気がした。
「十分ってなに!?やだよ……こんないきなりお別れなんて、絶対いや」
私の泣き顔を見て、二人は少し笑った。
その笑みが、私が最後に見た家族だった。
炎に耐えきれなくなった天井が崩れ、私たちに降り注ぐ、意識が遠のく中で、私は女性の探索者に抱え上げられ外へと引きずり出された。背後で家は完全に潰れ、赤い光だけがいつまでも網膜に焼き付いていた。
「んっ……最近は見なくなったのに、あの日のこと」
昨日あんなことがあったからか、いやな夢を見た。故郷や家族を失ってから私は助けてもらった探索者の女性に面倒を見てもらい何とか大学生になれた。
「翔君は大丈夫かな」
家に帰ってくると、体調悪そうにソファーに横になっていた。市販薬を飲ませて休ませたけど、今日も治らないなら病院に連れて行ったほうがいいかもしれない。
「大丈夫そう?」
もしかしたら寝てるかもしれないから、静かにノックして声を掛ける。
「……はい、昨日より大分楽になりました。今日休めば明日には治ってると思います」
部屋の中からしんどそうな声が聞こえてきた。
「今日は講義があるけど、体調が悪化したらすぐに連絡してね。家に帰るから」
「ありがとうございます。講義、頑張ってくださいね」
大学に行くため着替えて、玄関を開けると、夏にふさわしい熱気が私を包み込む。蝉の鳴き声に耳を傾けながら最寄りの駅まで歩く。
「すっかり、夏になったなぁー」
居候の男の子のことを考えていた。ビックリなことに今年から高校生の男の子、夕暮れに血だらけで私の家の前に倒れてた時は驚いた。過去のことは何も聞いてないから分からないけど、私は人を見る目はあるからきっといい子だと思う。いつか翔君が話してくれるときが来たら聞けばいい。
大学に着き、教室に入ると既に友人たちが席についていた。
「よっ!昨日は大変だったらしいね」
「あははーお恥ずかしい限りだよ」
やはり昨日のことは広まってるのか、私と友人が話してると周りの人たちも耳を傾けて聞いてる。
「でも、怪我とかはないから安心してね」
「それは良かったけど、これから大変だと思うから頑張ってね」
「へぇ……?」
「何を驚いてるのよ、昨日の同接見てたでしょ。ネットだとお祭り騒ぎだったわよ」
確かに同接が11万を超えてたがネットは見てなかった、疲れてたのと翔君の看病をしたりと忙しかった。
「そんなに盛り上がってたの……?」
「そりゃーもう、有名な海外探索者も発言したりしていたし。助けに入った仮面の男性がランキング一位説とか騒がれてたよ」
友人の言葉に私は頷くしかなかった。
確かに、あの男性は目が離せない何かがある気がする。まぁ、名前すら聞かないで別れちゃったんだけど。
「だからテレビの取材とかされる可能性が高いから頑張ってね」
「えぇ~私たちも男性のこと何も知らないんだけどなぁ……」
知ってることは圧倒的な力と、どうやってるのか転移トラップを踏んで最速で地上に連れて行ってもらったことぐらいだ。
顔は見えなかったけど、あの立ち振る舞いに強さはかっこよかったな。これが恋心なのかは、まだ分からないけど私が憧れてた探索者の姿ではあった。
いつかまた、出会えた時は名前ぐらい聞きたいな、そして仲良くなれたら……嬉しいな。
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