第4話 「映える」戦場と、投げ銭の雨
ズダダダダダダダダッ!!
乾いた破裂音が、駅前の広場を支配した。
ましろが構えた巨大ガトリング砲から、光の弾丸が豪雨のように吐き出される。
薬莢(やっきょう)の代わりに排出されるのは、キラキラと輝く光の粒子だ。彼女の「思考力」を摩耗して生成された魔力弾が、黒い『ノイズ』の肉体を次々と削り取っていく。
「はーい、みんな見てる~? 第十三防衛管区のアイドル、ましろちゃんだよっ☆ 今日の敵はちょっとキモいけど、みんなの応援で吹き飛ばしちゃうぞー!」
ましろの声色が、放送室にいた時とは別人のように跳ね上がっていた。
いわゆる「猫なで声」。
ガトリング砲の側面に固定されたスマホに向かって、彼女は完璧な営業スマイルを振り撒いている。
戦場の空中に、ホログラムウィンドウが展開される。
そこには、配信を見ている視聴者からのコメントが滝のように流れていた。
『ましろちゃんキター!』
『ガトリングぶっ放すJC尊い』
『あんなバケモノ相手にすげぇ』
『頑張れ! 負けるな!』
そして、コメントと共に鳴り響く、軽快な通知音。
チャリン、カキーン。
投げ銭(スーパーチャット)だ。
『¥1,000 弾代の足しにしてね!』
『¥10,000 怪我しないでね、愛してる』
「わぁ、高額スパチャありがと~! 大好きっ!」
ましろは画面に向かってウィンクを投げながら、引き金を引く指の力を緩めない。
彼女にとって、敵を撃つこととファンサービスは同義だ。
目の前の『ノイズ』が苦痛に悶え、黒い血液のような汚泥を撒き散らしても、彼女の笑顔は崩れない。
――狂ってる。
私は大剣を構えながら、冷めた目でその光景を見ていた。
ましろが悪いわけじゃない。彼女はただ、生きるために必死なだけだ。弟の手術費を稼ぐためには、こうして自分を商品化して、大人たちの好奇心を満たすしかない。
悪いのは、それを娯楽として消費する社会だ。
少女が命がけで戦う姿を見て、「映える」「感動した」と金を投げる大人たち。
ここは現代のコロッセオだ。
私たちは、見世物の剣闘士(グラディエーター)でしかない。
『オマエラ……ノ……セイダ……ッ!』
追い詰められた『ノイズ』が咆哮した。
身体を構成する黒い文字――『死ね』『ウザい』『消えろ』――が膨れ上がり、無数の棘(とげ)となって四方八方へ発射される。
広範囲攻撃。
一般人が逃げ遅れたショッピングモールのガラス窓へ、棘が殺到する。
「させないっ!」
叫びと共に、私たちの前に白い影が躍り出た。
紬(つむぎ)先輩だ。
彼女は展開した巨大な花弁型のシールドを地面に突き刺し、自分自身を壁にして立ち塞がった。
ドガガガガガッ!!
凄まじい衝撃音。
無数の棘がシールドに突き刺さり、光の膜を削っていく。
「ぐっ……うぅっ……!」
シールド越しに、衝撃が紬先輩の身体を貫く。
彼女の華奢な肩が跳ね、苦痛に顔が歪む。
魔法少女の装甲(ドレス)には痛覚遮断機能がついているはずだが、それすら貫通するほどのダメージだ。
でも、私は見てしまった。
苦痛に耐える紬先輩の唇が、微かに――笑っているのを。
「大丈夫、痛くない。私が防げば、みんなは無事だから」
うっとりとした、自己陶酔を含んだ声。
彼女の代償は「恐怖心の欠落」。
そして彼女の本質は「自己犠牲への依存」だ。
誰かの役に立って傷つくことでしか、自分の存在価値を確認できない。血を流している時だけ、彼女は自分が「生きていてもいい」と思えるのだ。
それは献身なんて美しいものじゃない。
もっとドロドロとした、心の病理。
『¥5,000 盾の子、マジ健気で泣ける』
『¥2,000 身体張りすぎだろ守ってあげたい』
コメント欄が、傷つく紬先輩を見て盛り上がる。
それを見た時、私の中で何かが弾けた。
「ふざけるな」
吐き捨てるように呟き、私は地面を蹴った。
これ以上、仲間が見世物にされるのは我慢ならない。
「陽! 右翼を削れ! 私が正面から核を潰す!」
「了解! 待ってました!」
私の指示に、陽が風のように反応する。
真紅の双剣を逆手に構え、光の軌跡を残して『ノイズ』の側面へ回り込む。
「遅い遅い! 僕のスピードにはついて来れないだろ!」
陽が笑う。
楽しそうだ。
彼女もまた、戦場という非日常に麻痺している。
走っている時だけは、彼女は「終わりのある未来」を忘れられるから。
三者三様の歪みを抱えたまま、私たちはただ、目の前の敵を殺すためのシステムとして機能する。
「正義」のため?
違う。
ただ、今日を生き延びるためだけに。
「はあああああッ!」
私は大剣を振りかぶり、紬先輩の盾越しに、『ノイズ』の懐へと飛び込んだ。
(続く)
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