第21話



「……それで、どうしてカフェ?」


「ああ、実は……学校のSNSで情報を募集したら同級生に、昔、柚とクラスメイトだったって子が居てさ」


 俺はこの疑いを確信に変えるために、カフェで人を待っていたのだ。


「ふぅん……? でも、柚の昔の話を聞いて、どうするの?」


「まあ、見てろって」


 ……まあ、大口叩いたのはいいものの、その同級生と会うのは、少し怖い。


 だって、そいつは――


 すると、その時、一人の青年が現れた。


「おっ! 居た居た! おい、速水!」


「あ、ああ……山内か」


 俺は、必死に笑みを浮かべ、彼をこちらに手招きする。


 名前は山内。俺のクラスメイトであり――


「いやぁ、久しぶりだな! まさか、中学から話しかけてこなかったお前が、今、オレに声をかけてくるなんてよぉ、意外だったぜ!」


 そう、中学時代の友人。あの時――友達じゃないと、陰口を叩いた奴だった。


「ま、まあな……」


 俺の声は少し震えていた。顔も少し、引き攣っているような気がする。


 頑張るんだ俺……セレスや雫さんの未来がかかってるんだぞ……ッ!


「てか、隣にいる子、誰?! 超可愛いじゃん!」


「ああ……この子は……俺の友達で、セレスっていうんだ」


「ん……」


 セレスは、山内の視線に不快感を覚えたのか、顔を引き攣らせる。


 すると、山内は興奮した様子で俺に耳打ちをしてきた。


「へえ、彼女じゃねえんだなぁ! じゃあさじゃあさ、速水の質問に答える代わりに……この子のこと、オレに紹介してくんね?」


「そ、それは……流石に……」


「いいじゃねえか、質問に答えてやらねえぞ?」


 山内は下卑た笑みを浮かべていた。


 断れば、質問に答えてくれなくなるかもしれないし、昔みたいにお前なんて友達じゃないって言ってくるかもしれない。


 でも……それでも、セレスは俺の大切な仲間だ。


 人を売るような真似は俺には出来ない……ッ!


 俺は、山内の言葉を断ろうと、口を開いた。


 気付けば、さっきまでの恐怖は、嘘のように消えていた。


「――一応言っておくと、恋人同士だから」


 そう言ったのは――セレスの方だった。


 彼女は鋭い視線を山内に向けていた。


「そ、そうだったのか……? わ、悪いな、それは……」


 山内は心底残念そうに、失望したような様子だった。


 でも……意外なことに酷い言葉は言ってこなかった。


 もしかして、俺の考えすぎだったのか?


 俺が考えているより……世の中の人々は優しいのか?


「んで、アイドルの柚のことだっけ?」


「あ、ああ! そうだな……山内は、柚と昔、クラスメイトだったんだろ?」


「つっても、小三の時だけどな」


「その時の柚はどうだった? こう……大変な目に遭ってなかったか?」


「うーん……どうだっけなぁ……確か、一部の女子からちょっとした嫌がらせを受けてたっけ?」


「嫌がらせ……」


「つっても、たまに、筆箱や鉛筆を隠されるくらいだぜ? 教師だって、ふざけ合ってるんだと思って注意してなかったし」


 それでも……嫌がらせは嫌がらせだ。


 柚が本当に嫌に思ったのなら、それは虐めとも呼べる。


「ちなみに、他には?」


「んー……そういや、途中から嫌がらせがなくなったっけ」


「それは……どうしてだ?」


「確か、小六だった姉が突然現れて、柚に嫌がらせしてた奴らをボコボコにしていったんだよ……ありゃあ凄かったぜ」


 姉……というと、果奈さんか。


「へえ……じゃあ、結構妹想いのお姉さんだったんだな」


「いや、それもそうじゃないらしいぜ? 柚がアイドルとして有名になってからは、有名アイドルの姉ってレッテルを貼られて、結構苦しんだんだってよ」


「そんなことが……」


 なるほど、比べられることで劣等感を覚えてしまったのか。


 それは……大変だな。


 同時に、これで全てがわかった気がする。


「ありがとう、山内。俺の疑問が解けたよ」


「ん? まあ、いいぜ。でも、速水はどうしてこんなこと聞いてきたんだ? 柚と仲良くなりてえわけでもないだろ?」


 そんな可愛い彼女がいるんだし、と山内は付け加える。


 一言余計だ。可愛いのは認めるが。


「まあ、諸事情ってやつだよ……じゃあ、俺はもう行くから」


 俺は、机の上に情報量として二千円を置くと、その場を立ち去った。


 早くしなければ……柚が危ない。


 だって――






「犯人は、あなたですもんね……果奈さん」


 真夜中。


 小さな一軒家の前で、扉の鍵を開けようとした果奈さんは、真後ろを振り返る。


 すると、彼女は驚愕で目を見開いた。


「なっ……どうして、あなたたちがここにいるんですか?」


「そりゃあ、柚を助けるためですよ」


 俺はニコリと彼女に微笑みかける。


 俺たちは、魔対から退勤した果奈さんのあとを、マギアローズで透明化してつけていた。


 理由は――彼女が犯人だと、俺は判断したから。


「えっと……言っている意味がわかりません。柚は私が保護していると言ったでしょう?」


「保護? 監禁の間違いではなくて?」


「なッ……?! そんなわけないでしょ、いい加減にしてくださいッ!」


 果奈さんは怒りを露わにする。


「そもそも、私はあの時、魔物が出現した場所とはかなり離れた場所にいました、どう考えても私が願い主なわけがないでしょう?」


 果奈さんは毅然とした態度でそう言い放った。


 普通なら、確かにそうだ。


 しかし、その理論は破綻している。


「魔物は……人の体からではなく、精神から生まれるものですよね? でしたら――人と精神を入れ替える異能があったとしたら、どうでしょうか?」


「は、はあ? そんな異能あるわけ――」


「あります」


 思い出すのはセレスが最初に言った言葉。


 X異能には炎を出したり、治癒をしたり、入れ替わったり……色々あると。


「もしもあの時、柚と果奈さんの精神が入れ替わっていたとしたら――果奈さんが魔物を生み出すことも可能だったはずです」


「……だとしたら、私は入れ替わりの異能の元となる願いと魔物の元となる願いの二つをしていることになりますよ? ……現実的に、ありえないです」


 確かに、現実的には有り得ない。


 しかし、彼女はそれが有りうる人生を送ってきているのだ。


「まあ、そこは後で追求するとして……俺があなたを犯人だと推測したのはもう一つ、理由があります」


「……なんですか?」


「ほら、さっき言ったじゃないですか……果奈さんが柚のことを監禁してるからですよ」


「はあ?」


 果奈さんは不快そうに眉間にしわを寄せる。


「さっき言った通り、私は柚を保護しているだけです。決して監禁なんてしてません」


「じゃあ、今、柚を呼んでもらえますか?」


「それは……出来ません。安全上の理由から、あなたなんかには柚を会わせられませんから」


「じゃあ、俺に対してではなくてでいいです……代わりに魔対の人たちに会わせてあげてください」


 俺はにこやかに彼女に微笑みを浮かべると、果奈さんは目を見開く。


 彼女の視線の先には――三月さん含めた数人の魔対が居た。


「どうしてここに……」


「く、黒岩次長……実は、確かめたいことがありまして……」


「まさか、この少年の話を真に受けたんですか?!」


 すると、三月さんは気まずそうな表情を浮かべて、小さく頷いた。


「なっ……そもそも、私の異能は探知です! 入れ替わりの異能なんて持っていないことくらい、わかっているでしょう?!」


「でも……黒岩次長、一人から複数の異能や魔物が生まれることは、珍しくないじゃないですか……」


「だとしても……三月や魔対の人たちは既に柚に取り調べを行なっているはずです……もう、これ以上は必要ないはずですよ?」


「……その時、果奈さんは同席してましたか?」


「いえ……してませんでしたが」


 すると、果奈さんはハッとした表情になる。


 そう、彼女には入れ替わりの異能があるのだ。


「でしたら、異能で入れ替わっている可能性があります……無実を証明するなら果奈さんと柚の両方がいなければならない」


「ッ……?!」


 果奈さんは思わず後ずさる。


 そうだよな、果奈さんは柚と俺たちを会わせるわけにはいかないよな。


 だって、ライブの時に入れ替わったとしたら――柚には、果奈さんと入れ替わった事実を知っているのだから。


 柚は被害者であり――全ての真相を知っている存在なのだ。


 だから、俺は果奈さんが柚を保護している、という言葉に疑問を持った。


 保護という名の監禁をすれば、柚の口封じを出来るから。


 当然、柚には魔対による取り調べが入るが……その時は、異能で入れ替わって仕舞えばいい。


「諦めてください、果奈さん……ライブ会場での犯行が失敗に終わった以上、あなたは負けなんです」


 すると、果奈さんは力が抜けたように地面に座り込んだ。


「……あはは、全部、全部気づかれたんですね……」


 そして、俯く果奈さん。


「やっぱり……果奈さんが犯人なんですね」


 カマキリの魔物を倒した後、すぐに駆けつけてくれたから良い人なのだと思っていた。


 けど、実際は実の妹を入念な計画で殺そうとするような人……だったのか。


 やっぱり、人っていうのはわからないな。


 すると、果奈さんは突然、ガバッと頭を上げた。


「バレたなら……最後に柚だけでも……」


 次の瞬間、果奈さんの周りに黒いモヤのようなものが集まっていく。


 まさか――


「絶対に、柚だけは……殺してやるッ!」


 刹那、一箇所に集まった黒いモヤから、あの人狼が現れた。


 人狼は現れるや否や、家の扉へ爪を一振り。


 扉は、一瞬で大きくひしゃげた。


「不味い……ッ!」


 俺が止めようとする前に、人狼はずんずんと家の奥へ無理矢理、歩いていく。


「おっと、絶対に邪魔はさせませんからね?」


 果奈さんは、俺たちの前に立ちはだかった。


 ――今だ。


 俺は、一瞬で願滅銃を構えると、果奈さんへ発砲した。


 念じるのは、魔物の原因となった願い。


 山内から聞いた情報によると、果奈さんは最初、妹想いだったらしい。


 つまり――嫌がらせを受けている柚を見た果奈さんは『入れ替わってやりたい』という心優しき願いをしたのではないのだろうか?


 しかし、柚がアイドルとしての道を見つけ、知名度を上げていくにつれて、嫉妬や周りからの好奇の目に晒されたことによるストレスを感じていった。


 結果――『柚を狙う魔物』を生み出した。


 つまり、魔物と元となった願いは――自分を苦しめた『柚が居なければ良いのに』というものではないのだろうか?


 俺は、導き出した願いを念じ、願滅銃を発砲する。


 銃弾は高速で果奈さんに迫っていき、胸の中に吸い込まれた。


 ――刹那、果奈さんの体から小さな光が漏れ、力なく地面に倒れ込んだ。


 つまり――推理が的中したのだ。


 俺たちの――勝ちだ。


 俺は安堵で胸を撫で下ろした。






 その後、柚は両手足を拘束され、口をガムテープで塞がれた状態で見つかった。


 しかし、怪我は一つもなかったため、本当に良かった。


 そうして柚は魔対の人たちによってしっかりと保護された。


「ふぅ……無事に解決して良かったな」


「ん……! 柚も雫も救えて良かった」


 本当に、良かった。


 一番の懸念は計画が失敗したことに激昂した果奈さんが、事件後、すぐに柚を殺していることだった。


 しかし、魔対から柚に取り調べがされるため、殺せばすぐにバレる。


 その点を考慮しておいてくれたのは不幸中の幸いだ。


「そうだ! SPはどうだ? どれくらい溜まったんだ?」


「ん……確認してみる」


 数秒後、セレスは嬉しそうに顔を上げた。


「ちょうどピッタリ、一万SP溜まった……!」


「本当か!?」


 じゃあ……これで、一つ目の問題を解決できるわけか……!


 数週間で一万SPを貯められたのだ。


 これなら、セレスの呪いだって案外、簡単に解呪できるんじゃないのか?


 希望が見えてきたぞ……!


「――あのぉ……速水さん、ちょっと良いでしょうか?」


 ――その時、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 三月さんだ。


「どうかしたんですか?」


「その……速水さんが黒岩次長を犯人だと特定した理由を上に提出しなきゃいけないくて……本当に申し訳ないんですけど、この後、警察署で話を聞くことってできないでしょうか……!」


「そうですね……三月さんには色々と協力してもらいましたし、それくらいなら構いませんよ」


 こうして果奈さんを追い詰めることができたのは、俺の話を信じてくれて、他の魔対と共に一緒に来てくれた三月さんのおかげでもあった。


 恩は返さないわけにはいかないだろう。


「本当にありがとうございますっ! じゃあ、向かいましょうか」


 にこやかに微笑みかけ、パトカーへ向かう三月さん。


 そんな彼女に――


「――いい加減、茶番はやめたら……?」


 そんな突飛なことを言い放ったのは、セレスだった。


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