第10話
帰宅後。
俺は、ベッドにダイブした。
流石に眠気が限界だったのだ。
「じゃあ、セレス……俺は寝るから」
「ん……でも、律、私……暇」
「んあ? ……じゃあ、そこにあるゲームでもやっててくれ」
俺は、目を擦りながら家庭用ゲーム機を起動する。
ゲームは……有名なレーシングゲームでいっか。
「これは車に乗ったキャラたちがレースするゲームだ……アイテムとか使って、頑張って一位を目指してくれ」
「ふぅん? わかった」
「じゃあ、おやすみ」
俺は、そのまま二度寝に入った。
「ん……寝過ぎたか?」
俺は、寝ぼけ眼を擦りながら起き上がると、時間を確認する。
今は昼の二時か……だいぶ、寝ちゃったなぁ。
すると、リビングからゲームの音のようなものが聞こえてきた。
「……あれ、セレス? まだゲームしてるのか?」
「ん……律、これ、凄く面白い」
セレスは、リビングに入ってきた俺には目もくれず、コントローラーを握る。
どうやら、かなり熱中しているようで、キャラクターがカーブする時には、セレスの体も一緒に傾いている。
「そんなに気に入ったのか」
「天界には、こんな遊びなかった」
結局、レースは二位で終わった。初心者が数時間やっただけで二位なら、だいぶ才能あるぞ?
「ふぅん……? そんなに気に入ったのなら、俺と対戦してみるか?」
少しイラッとしたのだ。
俺が始めたての頃なんて、基本は最下位だった。
なのに、もう二位だなんて……少し嫉妬する。
「ふん、受けて立つ……私、結構強くなった……ボコボコにしてみせる」
「はん、やれるものならやってみな!」
俺は早速コントローラーを握ると、ゲームを開始した。
その時だった。
――ピンポーン
家のインターホンの音が家中に響き渡る。
宅配でも頼んだっけ?
「律……インターホン鳴ってる」
「いや……確か俺、何も頼んでないぞ? セレスじゃないのか?」
「違う……私も頼んでない」
それならセールスとかだろうか?
うーん、今日は昨日の魔物との戦いで疲労が溜まっていることだし、セールスなんかの相手をする気力もない。無視するか。
俺はセレスとゲームをし続けた。
――ピンポーン
またしても、インターホンが鳴る
――ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン
今度は立て続けに三回鳴った。
「律……ピンポン、しつこい……ゲーム、集中できない」
おかしいな……宅配でもセールスでも、二回もチャイムすれば去っていくのに。
イタズラとかか? タチが悪いな……。
「まあ、暫くしたら鳴り止むだろ」
俺はそう思って、セレスとのゲームを再開しようとするのだが――
――ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン
インターホンが鳴り止むことはなかった。インターホンをここまで連打するのは、明らかに非常識だ。
「なあ、セレス……家のインターホンを鳴らしまくる魔物っているのか?」
「……多分、いないと思う。魔物に、そんな知能ない」
だよな……じゃあ、気が狂った奴がインターホンを押しているのかなぁ。だとしたら余計に扉を開けるべきではないな。
俺はインターホンを無視し、ゲームを始めた。
カウントダウンと共に、十二の車たちが発車する。
俺はスタートダッシュをバッチリと決め、すぐに二位に躍り出た。
一位は――
「ふふん、私が一位!」
「なっ……」
セレスは俺と同様に完璧にスタートダッシュを決めた上に、ドリフトなども活用していっため、俺よりもわずかに前にいた。
「な、中々やるな……けど、負けねえ!」
俺はアイテムを使い、セレスとの距離を詰める。
しかし、同様にセレスもアイテムを使い、距離はまたしても離される。
「ほう、一位で出てくるアイテムは基本コインだけだぜ? そんなところで貴重な加速アイテム使っちゃって良かったのか?」
「大丈夫……これくらいのハンデ、あっても勝てる」
その言葉通り、セレスは様々なカーブでドリフトを完璧に決め、俺との距離を保ち続けていた。
「ま、待て……本当に初心者か?」
「勿論」
そうして、セレスは一位で独走し続け、俺はずっと二位だった。
ゴールが近づいた時、俺は加速アイテムを二つ入手した。
対してセレスが入手したのは、案の定、なんの効果もないコインが二つだ。
これなら――
「ここでショートカットだッ!」
俺は連続で加速アイテムを使い、普通の速度では通れない場所を通り――
「よっしゃぁ! 俺が一位だぜ!」
FINISHという金色の文字ともに俺は一位でゴールした。
「ずるい……そんなショートカット、私知らない」
「まっ、知識も実力だからな」
ゲームが終わると俺はコントローラーを机の上に起き、伸びをする。
「悔しい……律、もう一戦――」
その時、ベランダの方からガタガタと物音がした。
「誰か居るのか?」
「もしかしたら魔物、かも」
その言葉を聞いて俺は咄嗟に身構える。
もしかしたら凶悪な魔物かもしれない。
俺はベランダに近づくと、そっと扉を開け、隙間からベランダを覗いた。
「――よいしょっと……」
すると、そこには現在進行形でベランダの仕切りを乗り越えようとしている少女が居た。
「な、何してんの?! 危ない――」
「――あーっ! やっぱり部屋の中に居たんですねっ!」
少女は俺を見つけるや否や、指を差しながらそう言った。
「え?」
「さっきからずっとピンポン鳴らしてたのになんで出なかったんですか?!」
え……さっきの連続インターホンはこの子だったのか?
「と、とりあえず危ないから仕切りを乗り越えるのはやめてくれ! ちゃんと玄関から通すからさ?!」
今、少女が乗り越えようとしている仕切りはそこそこ高く、もし滑ったりしたら地面まで落ちていくことだろう。
ここが三階とはいえ、落ちたら無事では済まない。
「本当ですかぁ? そう言って追い払う魂胆じゃありませんよね?」
「違うから!」
「むぅ……それなら仕方がありませんね……」
少女は地面に降りるために下を向くと……その時、彼女は氷像のように動きを止めた。
「……ひゃ、ひゃぁ! た、高い……」
少女の顔は見てわかるほど青ざめていく。こいつ、もしかして高所恐怖症だったのか?!
少女の手は震えて、徐々に倒れていき――
「きゃっ?!」
「落ち着け!」
俺は倒れそうになる少女の腕を慌てて掴み、左手で体を支える。
「大丈夫だ、大丈夫だからゆっくり手を離してゆっくり着地するんだ!」
「……え? は、はい!」
「ゆっくり、ゆっくりでいいからな? ちょっとずつ降りていけ?」
少女は小さく頷くと、俺のサポートを受けながら少しずつ仕切り板から降りていき……なんとか地面に足をつけることができた。
「……えっと……ありがとうございます」
少女は顔を真っ赤に染め、消えそうな声で言う。
よっぽど恥ずかしかったのだろうか。
「お、おう」
「じゃ、じゃあ……そっちに向かいますから」
暫くするとピンポーンとインターホンが鳴った。
「律? どうか、したの?」
「いやぁ、なんか隣人さんがウチに用があるみたいだからさ」
「さっきと対応、違うよ?」
「そ、それは……これ以上無視し続けるとこのマンションで転落事故が起きちゃうからさ」
また無視したら意地でも仕切りを乗り越えてきそうだが……次こそ滑り落ちて死んで事件になってもおかしくない。
俺は玄関まで歩くと、扉を開けた。
「こんにちは!」
扉の向こうには、初めのような元気を纏った少女がいた。
さっき、調子に乗って死にかけたのに、切り替えが早いなぁ……。
「こんにちは……えっと、ちなみにどういった用で?」
「そ、そうだ……私、引越しの挨拶というのをしにきたんですよ!」
「挨拶……?」
そういえば、元々ウチの隣って空き部屋だったはずだ。この子、ウチの隣に引っ越してきたのか。
「ええそうです! 私、一昨日から隣の家に住み始めた黒岩柚と言います! 以後、よろしくです!」
「えっと……俺は速水律です、よろしく」
俺は軽く会釈すると、少女の差し出した手を取った。少女の手は少し小さくて柔らかかった。
「わあ! 私と握手だなんて、本当なら有料ものなのに……お兄さんは幸運ですね!」
逆に金払ったら握手するのか?
変な人だ。
「律、うるさい……誰?」
その時、そんな声と共にセレスが玄関を覗いてきた。
「ああ、隣人の柚さんだよ。なんか一昨日、隣に引っ越してきたんだってさ」
「ふぅん……私、セレス……律と同棲してる」
「……そ、それっても、もしかして……嘘でしょ、こんな冴えない人にあんな綺麗な人がいるなんて――」
柚は俯きながら何かをブツブツと呟く。
うーん、多分、なにか勘違いしてるな?
「えっと、一応言っておくけど俺とセレスは――」
「う、うるさいです! 律さんの馬鹿! あんぽんたん! なすび!」
そう言って少女は走り去っていってしまった。
……なすびって何さ?
「えっと……セレス、これは追いかけるべきか?」
「別に……めんどくさい。放っておけば?」
まあ、それもそうか。
「酷いです……! こういうのは追いかけるのが普通じゃないですか?!」
数分後、またしてもインターホンの嵐と共に柚がやってきた。
「い、いやぁ、放っておいた方がいいのかな〜って」
「そんなわけないじゃないですか! もう……!」
柚はぷりぷりと起こってその頬を膨らませる。
なんというか……凄い表情豊かな子だな。
「この子……めんどくさい」
「は、はあ? ……ゆ、柚がめんどくさいですって?! アイドルに何を言うんですか!」
「アイドル……?」
「ええそうです! ……みんなのアイドルこと、Laraizaのセンター! 柚です」
「Laraizaって……」
最近ニュースになっていたような気がする。
Laraizaとは超人気美少女アイドルユニット。少し前に東京ドーム公演なんかも成し遂げたとか。
そのセンター?!
「律……知ってるの?」
「あ、ああ、名前くらいはな」
一時期、その名を聞かない日はなかったくらいだ。
「わああ! やっぱり知っててくれたんですね!」
柚はキラキラと目を輝かせて俺の手を掴む。
「その……実際に私を見てみて感想とか無いんですか? ほら、テレビの中との違いとか!」
「そう言われてもな……」
俺は頭を掻きながら考える。
テレビとの違いねぇ……いや、一つあるな。
「意外と……普通なんだなって」
「……そ、それはどういう意味ですか?」
柚の顔が凍りつく。しくじった、こんなことが言いたかったんじゃない……!
「別に馬鹿にしたり、見下したりしている訳じゃないよ? ただ……高い所を怖がったり、俺と話すのにちょっと緊張してたり、ちゃんと普通の女の子なところもあるんだなぁーって」
「ちゃんと、普通の女の子……」
不味い、変なことを言いすぎたか?
「……ふふっ、律さんって本当に面白いことを言いますね! 確かに私はまだ普通の人なのかも知れません!」
でも、仕方がないじゃないか。
怪物に恐れたり、高いところを怖がったり……ほぼ普通の女の子のようなんだから。
「そうだ! こういう時、普通は挨拶で菓子折りを渡すんでしたよね」
「もしかして、持ってきてくれたのか?」
柚は紙袋から黒い箱を取り出して俺に差し出してくる。
なんだ、意外と常識があるじゃないか。
「一応、中身が何か訊いてもいいか?」
「それは開けてからのお楽しみですよ、さあ開けてみてください」
俺は柚に言われるがままに黒い箱を開けると中には、薄い長方形の紙が二枚入っていた。
これは……?
俺は紙をよく見ると、紙にはLaraiza三周年ライブチケットと書いてあった。
「じゃじゃーん! ただ菓子折りを渡すだけではつまらないと思ったので、柚のライブのチケットを持ってきました!」
訂正、全然、常識がなかった。
いやまあ、貰えるだけ嬉しいけどさ? 引越しの挨拶で自分のライブチケット渡してくる人が世界中のどこにいるんだよ。普通菓子折りでは……?
そもそも、これは挨拶の品と言ってもいいのか? ただただ、柚が俺をライブに招待したいだけなのでは?
「ま、まあ一応貰っておくよ……行けたら行くからさ!」
「それって遠回しに行かないってことですよね?!」
彼女は苦笑いすると――
「絶対に来てくださいいね! 待ってますからね!」
最後に、念を押して柚は走り去っていった。
玄関に取り残された俺とセレスはお互いの顔を見合わせる。
「なんか、嵐のようなやつだったな」
「うん……凄い賑やかな人だった……」
「これどうする? セレスは行きたいか?」
俺は黒い箱に入ったライブチケットに視線を移す。
せっかく貰った超人気アイドルユニットのチケットなのだ。行かないのは少し勿体無い気がした。
「……折角貰った……だからちょっと行ってみたい」
俺のその言葉に少し驚く。セレスはこういう人が多くて賑やかな場所は得意じゃないと思ってたのだが……。
「てっきりセレスは、こういうの嫌がると思ってたよ」
「うん……私もうるさい場所は苦手……でも一回経験してみたくて」
そう言うセレスの声は少し楽しそうだった。
「それなら俺も一緒に行くよ」
流石にまだ社会に慣れていないセレスを一人にするのは気が引けた。
それにあの最近有名なLaraizeだ。正直、俺だって全く興味がないわけではない。
「さてと日程は……」
俺はチケットの表面を確認するとそこには六月二十六日十三時四十分開演という言葉が書かれていた。
「六月二十六日か……ということは、三週間後くらいだな」
俺はカレンダーに、赤ペンでその日を丸く囲むのであった。
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