第6話
「ご馳走様……凄い……凄い美味しかった……最後の晩餐でこのハンバーグを要求するくらい美味しかった」
料理を平らげたセレスは丁寧に胸の前で合掌した。
最後の晩餐でって……そんなに良かったのか?
「そうか? なら良かったよ」
俺は、食べ終わった食器をシンクに持っていく。
そういえば、一緒に住むのであれば、家事の分担とかはしなきゃだよな……。
「なあセレス、家事の分担はどうする?」
「家事……? 私もするの?」
「あったりまえだろ! 最低、半分はしてもらわないと困る」
「む……」
「家事しないなら、飯は作ってやらないからな?」
「私は何をしたらいいの?」
「手のひらクルックルだなぁ、おい」
そんなに飯が美味かったのか。
「じゃあ、具体的に、分担はどうす――」
「――料理は全部律がお願い」
俺が言葉を言い終える前にセレスは即答する。
料理にそこまで自信があるわけではないが、俺もセレスが作った料理は食べたくないしな……。
「じゃあ、とりあえず食器洗いくらいはしてくれるか?」
「わかった……掃除は得意」
セレスは任せろ、と言いたげに自分の胸を叩いた。
「えっと……普通に鍋やフライパンはスポンジで洗って他は食洗機に入れてもらえばいいからな?」
「大丈夫……その必要はない……私にはこのマギアローズがあるから」
そう言って彼女が取り出したのは白色のバラだった。
「ま、待て……なんだ? それは」
白色のバラは初めて見た。危険なものじゃないよな……?
「これは浄化のマギアローズ……これを汚れた食器に近づければ――」
セレスはそう言いながらデミグラスソースで汚れた小皿にバラを近づけていくと――
「ほら、綺麗になった」
小皿は一瞬にして元の色を取り戻した。それどころか使う前よりもピカピカと輝いているようにも見える。
「凄いな……」
「だって天使だから」
セレスは自信満々に自分の胸を叩く。
「掃除関連は大体このバラですぐに終わる……だから洗濯とかも任せて」
「え、マジで?! ……なあ、それならトイレ掃除とかも――」
「――嫌。天使の高潔な浄化の力をトイレ掃除に使おうとしないで……!」
「ええ……だってそのバラを近づけるだけじゃん」
「だとしても嫌! マギアローズが穢れる」
ダメなのか……正直、ちょっと期待していたのだが。
「じゃあ、洗濯と食器洗いと掃除はセレスの担当で俺は料理とトイレ掃除担当でいいな?」
「なんか一つ増えている気がするけど……わかった」
セレスは頷くと、何かを考えるような仕草をする。
「早速だけど律……今日の夜は唐揚げ? っていうのを食べたい」
「いや、さっき食べたばっかりなのにもう晩飯の話?!」
男子高校生の俺でも流石にもう腹一杯だというのに……。
「マギアローズを使うのにはそれなりのエネルギーがいる……だから仕方ない」
「仕方がないな……」
「ありがとう……じゃあ、買い物もお願い」
「なんか、しれっと買い物を頼まれた……?」
良いように使われているような気がしながらも、俺は家を出てスーパーへ向かうのであった。
「はあ……人使いが荒い天使だなぁ」
俺は、ようやく雨が上がった道を歩きながら呟く。
ふと、大きな水たまりに目を向けると、そこにはいつもよりも明るい顔をした俺がいた。
「人と喋るのは……久しぶりだもんな」
俺だってわかってる。
必死に親しくならないようにしながらも……彼女に絆されている自分がいることに。
いい加減、気をつけなければ。
――また、あんな思いをしないために。
思い返せば、あの日も、澄んだ空気の雨上がりだった。
それは中学二年生の頃。
親の事情で転校した俺は、友達作りに必死だった。
既に形成されているコミュニティに入るために、相手の発言のほとんどに相槌を打つようにしたり、共感したり……とにかく、死に物狂いだった。
それは滅茶苦茶、疲れるが……それで友達ができるのなら、それでいいと思っていた。
――でも、友達だと思っていたのは俺だけだったらしい。
『なんか、速水ってずっと相槌ばっかで一緒にいても楽しくないよな』
それは放課後に教室へ忘れ物を取りに帰った時だった。
いつも仲良くしていた友達の一人が教室でそう言っているのを聞いてしまったのである。
『それな! 何考えてんのかよくわかんねぇ〜』
『相槌打つ機械みたいなんだよ! 一緒に居てマジでつまんねぇ』
『そ、そうだよな! 速水なんて、友達じゃねえよ!』
『はは! それなー!』
会話を聞いた俺は廊下の冷たい床に膝から崩れ落ちた。
自分がつまらないことなんて知ってる、『機械みたい』なんてそれもわかってる。
俺が一番ショックだったのは……俺とあいつらが陰口を言われるほどの関係だったってことだ。
俺はあんなにもあいつらと友達になりたかったのに。だから苦痛にも耐え続けてきたっていうのに。
――お前らは俺のこと、友達だとすら思ってなかったのかよ……。
俺は逃げるようにその場を後にした。
結果、心に深い傷を負った俺は、家に引き篭もった。
もう、誰とも関われる気になんてなれなかったのだ。
『律! 部屋から出てきなさい!』
親は俺の話を聞いても尚、何度も俺を部屋から引き摺り出そうとしてきた。
今思い返せば、俺は……それが少し嬉しかった。
両親は、まだ俺を見捨ててない。俺を助けようとしてくれているのだと。
だが、それも一ヶ月で終わりを告げた。
『あれ……? 母さん? 父さん? どこに行ったの?』
気付けば、両親の姿は家から消えていた。
連絡なんて何もつかず、唯一の繋がりは月末に送られてくる多額の生活費のみ。
結局、俺は今で信頼していた全てから裏切られたのである。
【セレス視点】
バタンと扉が閉じ、部屋には静寂が訪れる。
「それにしても……不思議な人」
思い出されるのは、律が電車の運転手を助けようとした時の言葉だ。
『俺はあの人を助けたい……というか、俺のせいで、ああなったんだから助けなきゃダメな気がするんだ』
電車の運転手はその仕事柄、人を轢いてしまうことがあっても仕方がない。あの運転手ならいずれ、魔物を生み出していただろう。
それにあれはほぼ事故のようなものだ。本当は律にそこまで責任はない……。
律は天界には居ないタイプの性格だ。天界は良くも悪くも傲慢な人ばかり……律みたいな人は初めてみた。
「なんで……あんな優しい人が」
優しい人ほど怒ると怖い……という言葉が人間界にはあるんだっけ。
だから、あの人が――を。
私がしっかりしないと……ちゃんと律を見張らなければ。
最悪――世界が滅ぶ。
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