まるで映画のようなワンシーンを見つめた五秒のこと

暮れ方の八百屋の店先で、その子は立ち止まっていた。


コートの袖口から覗く小さな手。蘇芳色に染まりはじめた夕陽のなか、デコポンの表面をそっとなぞっている。

そのささやかな仕草のためだけに、世界はどこか遠くで静止しているようだった。指先が感じとる果皮の凹凸を、小さな心臓が静かに聞き取る。


ちいさな静寂が、黄丹色の静物画のように折り重なっていく。


大人なら見過ごしてしまうような、ささやかな映画の一場面のように。

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