第4話 黄金の騎士アルマ、鉄壁の装甲が弾け飛ぶ!

 昨夜の爆発で、ライラの寝室の天井には見事な天窓あなが開いていた。

 そこから差し込む月光を浴びながら、ライラはシーツに顔を埋めてのたうち回っていた。

「……あぁぁぁもう! なんであんなこと言うたとや、うちのばかぁぁ!」

 脳裏にリフレインするのは、昨日の自分の台詞。

 ――『一回だけなら、耳掃除させてあげてもよかとよ』。

 思い出すだけで全身から火花が出る。あんなにデレた自分を、当のオトモが見ていなくて本当に良かった。そう自分に言い聞かせ、赤くなった頬を冷やそうとした瞬間――。

 ヒュゴォォォォォン!!

 凄まじい風切り音と共に、天井の穴から「それ」は降ってきた。

 ドゴォォォォォン!! と床を貫き、ライラのベッドの真横に突き刺さったのは、眩いばかりの黄金の延べ棒だった。

「な、なんなんこれぇぇ!? 金塊!? 空から金塊の降ってきたぁぁ!?」

 混乱するライラを余所に、金塊の雨は止まらない。城の庭に、屋根に、庭園の噴水に、文字通り「金の雨」が降り注ぐ。そこへ、夜空の彼方からひらりと一人の男が舞い降りた。

「お嬢様、ただいま戻りました。本日の天気予報は、時々マネーテロといったところでしょうか」

「オトモ! これ、あんたの仕業!? どこから持ってき……」

「いいえ。これは『前払い金』ですよ。お嬢様の従者わたしを、金で買い叩こうという不届き者のね」


 黄金の雨を割り、城の正門から一糸乱れぬ隊列が進軍してくる。

 先頭に立つのは、重厚なフルプレートメイルに身を包んだ、一人の騎士だった。

 兜を脱いだその顔に、ライラは思わず息を呑んだ。銀髪が月光に透け、切れ長の瞳が冷たく輝く。

「……ちょっと、かっこよかやん……」

 ライラの頬が微かに染まる。だが、騎士は腰の長剣を天に掲げ、朗々たる声で響かせた。

「我は、帝国が誇る比類なき黄金。女帝陛下に忠誠を誓いし、黄金騎士団団長――アルマ・フォン・ゴルテナなり!」

 凛とした名乗りに場が静まり返る。アルマは鋭い視線をオトモに向けた。

「オトモとやら、そこに積まれた黄金は女帝陛下からの『買収金』だ。お主を帝国の『至高の美の管理者』として召し上げる。今の主を捨て、我と共に来るならば、これ以上の金と地位を約束しよう」

「お断りします。私はお嬢様の、お耳掃除の予約で埋まっておりますので」

 オトモの即答に、アルマの眉がぴくりと動く。

「……交渉決裂か。ならばライラ王女、貴殿との一騎打ちにて勝敗を決する! 我が勝てば、力ずくでその従者を奪取させてもらう!」

「ちょっと! 勝手にうちのオトモを景品にせんでよ!」

 アルマが黄金の長剣を抜き、ライラへ肉薄した。ライラも咄嗟に電撃を纏い、応戦する。だが、アルマの剣技は凄まじかった。重装甲とは思えぬ速さ、無駄のない動き。ライラは防戦一方となり、じりじりと追い詰められる。

「くっ、速い……っ!!」

 しかし、一瞬の隙を突いて放ったライラのカウンターが、アルマの胸部装甲を直撃した。

 ――ピシリ。

 強固な魔導金属に、小さな「亀裂」が走る。

「お嬢様! 大事なお客様の防具を破損させてはなりません!」

 突如、オトモが二人の間に割って入った。

「どきなさい、オトモ! 今いいところなのよ!」

「いいえ! この亀裂……内部の『圧力』に装甲が耐えられないのが原因です! 放置すれば大惨事、今すぐメンテナンスが必要です!」

 アルマの警告など、オトモには聞こえない。

 オトモが神速の指先で鎧の亀裂をなぞる。

「何を……やめろ、離れ……っ!」

そして、接合部のボルトを一斉に弾いた瞬間――。

 バゴォォォォォン!!

 まるで行き場を失ったマグマが噴出するように、アルマの胸部装甲が弾け飛んだ。

 重厚な鎧、そしてそれを縛り付けていたサラシが千切れ飛び――。

 そこから溢れ出したのは、しなやかで形の良い、**「たわわな巨乳」**だった。

「あ、ああ……! 我の、秘め事が……っ!」

 男装の麗人として生きてきたアルマの、最大の禁忌。

 凛々しい顔を屈辱と羞恥で真っ赤に染め、アルマはその場にヘナヘナと座り込んでしまう。

「あぁ……素晴らしい。これほどまでに抑圧されていたとは。団長殿、圧迫による鬱血をケアさせていただきます」

 オトモは、もはや様式美となった手捌きで特製オイルを取り出し、震えるアルマのデコルテに塗り込み始めた。

「……っ、ふ、あ……ぁぁ……! だめっ……恥ずかしいっ……だめぇぇ!!」

 その光景を見ていたライラの脳内で、何かが音を立てて切れた。

「……騙したぁぁ!! 男装しといて中身はそんなにワガママボディとか、反則やろもん!! うちのときめきば返せぇぇぇ!!」

 嫉妬、屈辱、そして自分より遥かに豊かな「それ」への憤り。ライラの全身から、過去最大の電撃が放出される。

「あんたも、いつまで触っとーとかぁぁ!!」


ライラの叫びに呼応するように、周囲に散らばっていた黄金の延べ棒が激しく共鳴を始めた。

 

 バリバリバリッ!!

 

 高純度の黄金は、ライラの放つ高電圧を吸い込み、超高温のプラズマへと姿を変えていく。地面に突き刺さった金塊が、まるで爆弾の信管のように眩い光を放ち、庭園全体が太陽のような輝きに包まれた。

「あ、あれ? お嬢様、なんだか空気の絶縁破壊が始まっているような――」

 空気がパチパチと震え、城の庭そのものが巨大な導体と化す。逃げ場のない超エネルギーの渦中で、ライラは涙目で最後の一喝を叩きつけた。

「………………オトモの、ばかちんがーっ!!」

 ドガァァァァァァァァァン!!

 プラズマ化した黄金が一気に膨張し、夜空を真っ白に染め上げる大爆発が起きた。

 

「……女に戻された気分だ……」

 アルマは、毒気が抜けたツヤツヤの顔で、部下の騎士たちに抱えられながら虚空の彼方へと撤退していった。

 静寂。

 ライラは、金塊の山が溶けて固まった庭を見下ろし、自分の平坦な胸元に手を当てた。

「……うちは鎧ば着ても、あんな風にはならんもん……」

 漏れ出た小さな電撃が、ライラの虚しい呟きと共に夜の闇へ消えていった。

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