第1章 偶像の求心力 第7話 偽神の受肉
リリスを堕落させるつもりだった彼ら自身が、
いつしかリリスの放つどす黒い熱量に当てられ、
自分たちが生み出した偶像「さくら」のコントロールを失い始めていた。
記号が、生身の欲望に侵食されていく。
二つのアカウントが放つ輝きは、
もはや美しい「K」の選別ではなく、
共倒れを予感させる地獄の熱気へと変貌していた。
「さくら」という完璧な記号が、
最初に内側から裂け始めた。
運用の中心にいた男の一人、谷口には、
消えないトラウマがあった。
かつて、信じていた女性にSNSで
「誠実そうな顔をして裏で何をしているかわからない」
と事実無根の告発をされ、
社会的に抹殺されかけた過去。
だからこそ彼は、
「絶対に裏切らない、感情を持たない偶像」として、
さくらを過剰なまでに守り抜こうとしていた。
だが、リリスの生々しい性欲の奔流に当てられ、
谷口の防衛本能は、次第に暴走していく。
「もっと清廉に……
いや、もっと幼くすれば、奴らは戻ってくる!」
その歪みを、
最下位の泥の中に沈んでいた御子柴は見逃さなかった。
(……今だ。
システムの綻びは、一度広がれば二度と閉じない)
御子柴は、かつて『K』の裏方として培った
SNS運用の禁じ手を、ついに解禁する。
【告知】
さくらの正体を考察――
そう銘打ち、投稿を始めた。
「『さくら』は一人じゃない。
これは、男たちによる組織的な偽造だ」
投稿のメタデータ。
投稿秒数の僅かなズレ。
文体に滲む微細な揺らぎ。
御子柴はそれらを、
プロの視点で徹底的に解析し、公開した。
この暴露は爆発的なインプレッションを生み、
御子柴は一夜にして、
最下位の崖っぷちから這い上がる。
パニックに陥った「さくら」の中の男たちは、
ボイスチャットで怒号を飛ばし合いながら、
同時に反論投稿を打ち始めた。
『私は一人です。信じてください』
『あたしは……』
一人称すら統一されない、支離滅裂な弁明。
投稿されるたびに矛盾は増殖し、
ついに十日が経過した。
【システムアナウンス】
参加者『さくら』、
一週間連続最下位により敗退。
大罪を断罪します。
ゲームは一時中断され、
世界に「さくら」の中身が晒された。
雑居ビルにいた男たちの本名。
住所。
勤務先。
谷口は大学を追われ、
リーダー格の男は会社を解雇された。
ネットの海には罵詈雑言が溢れ、
絶望した一人は、
配信中に睡眠薬を飲み干す姿を晒した。
運営による「断罪」は、
単なるゲームオーバーではない。
それは、
人生そのものの破壊だった。
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