第1章 偶像の求心力 第5話 赤外線センサー
彼らは、暗い部屋で高笑いしていた。
モニターの中で、リリスが焦燥に駆られ、次第に露出をエスカレートさせていく。
その様子は、彼らにとって極上の酒の肴だった。
「……おい、なんだこれ」
一人の男が、画面の隅に表示された数値を指差した。
桁が、明らかにおかしい。
誰の想定も超え、数字は異常な速度で跳ね上がっている。
周囲の男たちが身を乗り出し、ざわめきが一気に広がった。
「リリス……伸びすぎだろ」
それは想定外だった。
さくらを引き立てるための、ただの“踊り子”のはずだった存在が、舞台の中央へ躍り出ようとしている。
昨夜、リリスは「一線」を越えた。
ライブチャットの画面越しに、彼女はこれまで死守してきた「下着」という最後の境界線を、ほとんど感情のこもらない手つきで外してみせた。
「……もう、これじゃ足りないんでしょ?」
レンズを真っ直ぐに見据えたまま、彼女は視線を逸らさない。
画面を埋め尽くすのは、言葉にならない歓声と、洪水のように押し寄せる通知音。
「誰か、私を満たして……。
本当の『リリス』を、愛してくれる人」
その夜の配信の最後、彼女は選ばれた上位支援者との「特別な時間」を告げた。
そして今夜。
真希は新宿のラブホテルで、名前も知らない男と一夜を過ごした。
健太との、義務としての触れ合いとはまるで違う。
そこにあったのは、自分を「女神」として扱う男による、歪んだ献身だった。
翌朝。
乱れたシーツ。
肌に残る指の痕。
言葉を交わす必要すらなかった空間。
その断片を、真希は慎重に切り取ってSNSへ投下していく。
それだけで、十分だった。
リリスの数字は、爆発的な欲望を燃料にして跳ね上がり、
さくらが決して踏み込めない領域へと、確実に足を進めていった。
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