第1章 偶像の求心力 第2話 不完全な完成形
快感は加速した。次はライブチャットへ。顔を半分隠し、露出の高い服を着る。
「脱いで」――その要求を鼻で笑い、下着の紐を指でなぞるだけで、画面にはチップという名の賞賛が降り注ぐ。
由香はソープで体を触らせ金を稼ぐが、真希は指一本触れさせず、画面越しに男たちの理性を狂わせる。彼氏との義務的行為で削られた自尊心は、リリスとして君臨する時間によって、どす黒い万能感に塗り替えられていく。
そして、目の前に立ちはだかるのは――清楚系インフルエンサー・さくら。
男たちの保護欲をそそる、完璧なパッケージ。
――あんなもの、ただの虚飾よ。汗もかかず、欲も出さず、中身のない書き割り。私の男たちが奪われるなんて、絶対に許せない。
深夜の自室。 リングライトの青白い光が、真希の顔を平坦に照らしている。 彼女はカメラの向こうにいる数万人の「信者」へ、甘く、それでいて鋭い毒を含んだ声を落とした。
「……ねえ、みんな。最近人気のさくらちゃん、見てると胸が苦しくなっちゃうの。あんなに完璧な“理想”を押し付けられて……本当は、泣いてるんじゃないかな」
心配を装ったその言葉は、命令だった。 リリスの「お願い」は瞬く間に熱を帯びた軍勢へと変わり、さくらのリプライ欄になだれ込む。
「清楚の押し売り」 「裏垢出せよ」 「中身は脂ぎったオッサンだろ」
だが、翌朝。 真希の期待は、無機質な静寂に裏切られる。
さくらは、炎上など最初から存在しなかったかのように、 不器用な手つきで作ったという「お弁当チャレンジ」の写真を投稿していた。
『今日は卵焼きがうまく焼けませんでした……。 でも、一生懸命作ったから見てほしいな🌸』
少し崩れたおかず。不揃いな彩り。 その「隙」こそが、大衆の保護欲を狂わせる。
コメント欄は瞬く間に埋め尽くされた。 「そんなさくらちゃんが愛おしい」 「完璧じゃないのが最高」
リリスが放った毒は、 さくらの清楚さを際立たせるための、安っぽい演出として吸収されていった。
さらに彼女は、「最近のメイクに挑戦」と称し、 流行を取り入れながらも清廉さを失わない動画を淡々と投稿し続ける。 そこには激情も反論もない。ただ、徹底された「偶像」としての純度だけがあった。
世界はその完成度に熱狂していた。
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