序章 饗宴の招待状 第5話 仮面
御子柴は、震える手で告知文を打ち込んだ。
今の自分にできることは、これしかない。
――そう、分かっていた。
『今夜21時、Kに関するすべての真実を、私の口からお話しします』
その告知は、飢えた群衆を一気に引き寄せた。
21時。
同時接続者数が、爆発的に跳ね上がる。
画面に現れたのは、
これ以上ないほど惨めに憔悴した御子柴の姿だった。
無精髭。
落ち窪んだ目。
言葉を選ぶ余裕すら失った声。
「Kさんは……邪智暴虐な人でした。
僕は毎日、彼に罵倒され、時には暴力を振るわれながら、
彼が望む通りの内容を、言わされていただけなんです」
それは、あまりにも“完成された”被害者像だった。
「僕は、壊れていく彼を、ただ見ていることしかできなかった。
一番、無能な被害者なんです……」
御子柴は、気づいていた。
この話が、どこにも刺さらないことを。
正道のような「断罪」の快楽もなく、
RIN-Kのような「暴露」の中毒性もない。
ただ、弱くて、救いようのない男の、
ありふれた悲劇。
「……つまらねえな」
誰かが、そう呟いた。
それを合図に、何千人という視聴者が、静かにブラウザを閉じていく。
バッカスは鼻で笑い、配信を切った。
さくらも、リリスも、競う価値のない存在だと判断し、興味を失った。
御子柴のインプレッション数は、音を立てて崩れ落ちる。
ランキングは、一気に最下位付近まで沈んだ。
その様子を見つめながら、
御子柴は、胸の奥でひとつだけ思った。
(……やはり、そうだ)
被害者は、
消費されない。
だが、その冷え切った画面の向こう側で、
御子柴を擁護する、のどかの一派だけが、静かに結束を強めていた。
そのとき、全参加者と視聴者の端末に、
運営からの通知が一斉に届く。
無機質な通知音が、深夜の街に不気味に共鳴した。
【ここまでは予定通りです】
【これは大衆への序章に過ぎません】
画面の文字は、感情を一切含んでいなかった。
誰かを嘲るでもなく、煽るでもなく、
ただ事実だけを告げている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます