序章 饗宴の招待状 第4話 迫り来る魔物
正道チャンネルの投稿は、瞬く間に拡散された。
「Kの失墜、その裏に潜む真の黒幕」という物語は、正義の形を借りて、タイムラインを占拠していく。
そこに、炎上系インフルエンサーのRIN-Kが便乗した。
正道の動画を“素材”として切り取り、煽り、笑いに変える。
Kの不祥事の謎は、もはや真相を探るものではなく、
どこまで燃えるかを競う娯楽として、再加熱していった。
その間、御子柴はアパートの床で膝を抱えていた。
背中を壁に預け、逃げ場のない子どものように、身を縮めている。
窓の外では、RIN-Kの配信を見て駆けつけたと思しき野次馬たちが、御子柴の部屋を見上げていた。
石が投げられ、窓ガラスに鈍い音が響く。
同時に、無数のスマートフォンが掲げられ、そのレンズが、彼の存在を“証拠”として切り取っていく。
「出てこいよ、脚本家!」
「ポエム聞かせてくれよ! 被害者様!」
笑い声。
怒号。
どれもが、軽い。
物理的な暴力よりも、
デジタル上で分解され、編集され、再生され続ける己の「過去」のほうが、
遥かに深く、御子柴を蝕んでいた。
画面の中では、のどかが必死に擁護の声を上げている。
『RIN-Kさん、あんなのはいじめです!
過去を晒して、何が楽しいんですか!?』
その言葉は、確かに正しい。
だが、RIN-Kが放つ「面白さ」という名の濁流の前では、あまりにも軽かった。
正しさは、関心を集めない。
御子柴は、それを誰よりもよく知っていた。
彼は、液晶の中で踊るRIN-Kのアイコンを、ただ黙って見つめていた。
そのとき、はっきりとした予感が胸に落ちる。
――この七人は、争っているのではない。
――互いの欲望を、互いの欲望で“喰って”いる。
怒りは怒りを呼び、
正義は新しい悪を生み、
暴食は、すべてを飲み込む。
そして、自分の「強欲」は――
まだ、何も牙を剥いていない。
狂乱が極致に達した頃、
全参加者と視聴者の端末に、運営からの通知が一斉に届いた。
無機質な通知音が、深夜の街に不気味に共鳴する。
【追記:敗北条件の設定について】
「本ゲームの根幹は『関心』です。
視聴者からの認識が一定基準を下回った者は、その時点で脱落とします。
具体的には、総インプレッション数が参加者中ワーストを三日間継続した場合、
あなたの『最も守りたい秘密』を、全世界に常時公開いたします」
それは、支持率ではなかった。
評価でも、是非でもない。
ただの「数字」による足切り。
誰からも見向きもされなくなった瞬間に、
その人間の人生は、ネクスト・ステージの手によって“素材”にされる。
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