新聞部の次の記事会議

 これらの記事を編集したのは新聞部の部員である僕こと、秋空久羽人(あきそらくうと)である。自分で言うのもなんだが、特に特徴のない高校生である。身長が百七十ほどの中肉中背の体型で、中学校から部活には入っていない。高校でもそのつもりだった。勉強は苦手であるが、何とか公立高校に通っているのだ。

 そんな中、部長の隠滝向日葵(かくれだき ひまわり)さんに誘われて新聞部に入った。活動としてはもっぱら校内での噂や町のニュースについて記事にしている。取材を行うのは別の部員であり、僕はあまり関わってはいない。


「ねえ、次の記事は幾つか候補があるんだけど、どれにする?」


 向日葵さんは小麦色に焼けた肌に慎ましい胸、動きやすいように肩までで切りそろえたボブカット。それに猫のように大きい黒目が印象深くクラスの男子生徒の中でも度々と話題に上がる美少女らしい。

 そんな向日葵さんは机の上に一枚のルーズリーフを広げた。そこには次の取材候補がいくつか書かれてあった。

 その中でもビックニュースには花丸がしており、転校生、とだけ書かれてあった。


「これがビックニュース?」


 眼鏡をかけた部員は首を傾げた。

 伊集院貞宗(いじゅういん さだむね)という僕と同級生の部員である。


「ふふん。どんな人だと思う?」


 向日葵さんは満面の笑みだった。


「転校生? この時期に来るんですね」


 伊集院君は訝しげだった。


「ああ。詳しい事は知らないけど、親の事情かもしれないね? 色々とあるんでしょう。知らないけど。けどさ、そんな事より、この転校生がさ、なんと女子なんだってさ。それもすっごい可愛いらしいんだよ! これはテンション上がるね!」


 向日葵さんは鼻息が大きくなる。


「……そうかも知れないけど、それってどこまでが本当なんですか?」


 伊集院君は半信半疑のようだった。

 確かに美人の転校生が入学式から二ヶ月経った時期に来るなんて妙としか思えない。男子高校生が夢に見るような都合の良い展開。そんなものがこの世にあるはずがないと思っている。

 そもそも本当に美人で女なのか、という疑問も湧いた。


「それがどうやら本当らしいんだよね。私も玄関でちらっと横顔を見たんだけどさ、息を飲むような美人だったよ! 大きな目に薄い唇。それに、美しい黒髪が長くてさ。思わず女子の私でもうっとりとしたなー」


「それは凄いですね」


「うん! あんな美人始めて見たよ。きっと皆も一目見たら惚れると思うよ。実際私も一目ぼれしそうだったから」


 自信満々に言う向日葵さんに部員の皆は緩く頷いた。

 僕も興味がないと言えば嘘になるが、平均以下の男子である自分にそんな美人がなびくとも思えないので最初からいい仲になれれば、なんて幻想を抱くわけもなかった。


「そんな事より、以前に部長が言っていたこの町での失踪事件はどうなったんですか? 前に何度も記事にした上で、追加で調べると言っていたでしょう?」


 僕は気になっていたことを聞いた。少しだけ記事として纏めていたからだ。

 あの記事は僕もよく覚えている。だけど、それ以外にも失踪者は少なからずいるみたいで、探していると言っていた。

 僕たちが住むこの街――幽現市(ゆうげんし)は、都会から電車で一時間半ほどかかる田舎でも都会でもなく中途半端な町だ。二十年ほど前はベッドタウンとして栄え、駅前にも有名なデパートなどが数多く作られたが、今となってはそんなデパートも閉まり、町としても終速の一途を辿っていた。

 だが、まだまだ人は多く、子供も多かった。

 そんな幽現市であるが、どうやら数ヶ月前から人が少しずつ失踪しているという噂があるらしい。出処は不明で、僕の友人や親戚は誰一人といなくなっていないが、どうやら向日葵さんの友人の友人がまた新たに忽然と姿を消したようだ。

 それから、向日葵さんはこの件に特に興味を持ったらしく、調べているらしい。


「そう言えばこの土日に調べていたんだけど、そう言えば話すのを忘れていたね――」


 鞄の中からダブルクリップで止められた書類を取り出した向日葵さん。


「これは何ですか?」


「私が手に入れた失踪者のリストだよ。最近、ここ半年に絞っていなくなった人について、集めたんだけど、残念ながら共通点とか無くて、どうにも無作為だから事件の可能性は低いって言っていたよ!」


「……ちなみにそれは誰から聞いたのですか?」


 そもそも僕は、向日葵さんがこのリストを作り上げたとは思っていない。そんな能力など無いことがあれば、いつもの新聞部の記事も僕ではなく向日葵さん自身が作っているからだ。


「ふふん。私の叔父だよ。どうやら警察もこの件に関わっているみたいなんだけどさ、何も手がかりが見つからないから、ただそれぞれの理由がある失踪が重なっただけなんじゃないか、って言っていよ。そろそろ捜査も打ち切るらしいし!」


 向日葵さんは得意げに語る。


「それって皆に言ってよかったのですか? そういうのって、他人に言ったらいけないじゃねえの? そもそも記事にしていいかが……」


 そう言いながらも僕は、向日葵さんの出した書類をぱらぱらとめくって見る。

 どうやらこの半年の間に行方不明の者は全部で八十八人。老人よりかは若い人が多く老人は二人しかいなかった。また未成年も二人しかいなく、大半が二十代から三十代だ。だが、その中に見たことのある名前が一つあった。

 灰崎慎吾。中学校の時のクラスメイトだ。それほど仲が良かったわけでは無かったが、同じクラスで二年三年と続けてクラスメイトだったので、顔も薄っすらと覚えている。確かサッカー部に所属していて、運動は得意だったが、あまり勉強は得意ではないのが特徴だっただろうか。

資料によると、灰崎はどうやら一月ほど前から行方不明になっているようだ。高校から下校したのを最後に、行方を暗ましたらしい。


「内緒にしておいてくれよ。それにさ、この失踪事件よりもおもしろそうな話があるから、今はあまりこっちには興味はないんだよね! やっぱり美人な転校生に注目しているから、次の記事は転校生にするよ!」


 部長の指示に部員は誰も逆らえない。

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