第10話

家守家のリビングでの「審判」は、予想外の方向へと転がっていった。

 すべてが俺の勘違いだと判明し、魂が抜けかけていた俺の前で、凛(りん)さんが深々と頭を下げたのだ。

​「……佐藤さん、本当にごめんなさい! 実は、途中から気づいていたんです。佐藤さんが私のことを『どこかの誰かの奥さん』だと思い込んで、一生懸命守ろうとしてくれていること」

​「え……気づいて、いたんですか?」

​ 凛さんは耳まで真っ赤にしながら、膝の上の拳をぎゅっと握りしめた。

​「はい。最初は驚いたんですけど、あまりにも必死に助けようとしてくれるから……その、なんだか嬉しくて。指輪をしていないのも、ただの独身だからなんですけど、佐藤さんが勝手に『悲劇の証』みたいに解釈して、熱い視線を送ってくれるのが……心地よくて」

​ 彼女はチラリと俺を見て、恥ずかしそうに視線を逸らした。

​「説明するタイミングを逃したっていうか、正直に言うと……少しだけ、佐藤さんの反応をからかって楽しんでいました。本当にごめんなさい!」

​ 隣で姉のミカさんが「この子、意外とSなのよねー!」と爆笑し、義兄の悟さんが「お前、あんなに命がけだったのに報われねえな」と肩を叩いてくる。

​ だが、俺の心は驚くほど軽かった。

 からかわれていた? そんなこと、どうでもいい。

 彼女が、誰の所有物でもない「一人の女性」として、俺のことを見ていてくれた。その事実だけで、俺の心は真夏の日差しのように輝き始めた。

​「……凛さん。僕、とんでもないバカでした」

​ 俺は、彼女の目をまっすぐに見つめた。

​「勘違いで、不倫だと思い込んで、でも……助け出したいと思った気持ちだけは、本物なんです。だから、今度は勘違いじゃなくて、ちゃんと一人の男として、あなたを幸せにするチャンスをくれませんか?」

​ リビングが、一瞬の静寂に包まれる。

 ミカさんと悟さんが息を呑んで見守る中、凛さんは、ポロポロと一粒の涙をこぼして微笑んだ。

​「……はい。喜んで、救い出されてあげます」

​エピローグ

​ 一年後。

 マンションの二〇一号室と二〇二号室は、相変わらず壁一枚で繋がっている。

 だが、その壁を隔てた関係には、大きな変化があった。

​「おーい、佐藤! 庭でバーベキュー始めるぞ。肉、焼けたぞ!」

​ ベランダ越しに声をかけてくる悟さんは、今では「怖い魔王」ではなく、頼れる義兄(予定)だ。

 そして、俺の部屋のキッチンでは。

​「佐藤さん、お肉焼けたみたいですよ。早く行きましょう?」

​ エプロン姿の凛さんが、あの日と同じ、いや、あの日以上に眩しい天使の微笑みで俺を呼ぶ。

 彼女の左手の薬指には、今度は俺が贈った「勘違いではない」指輪が、キラリと光っていた。

​ 隣の奥さんに恋をした。

 最悪の始まりは、最高のハッピーエンドへと繋がっていた。

​「……行こうか、凛」

​ 俺たちは手を繋ぎ、賑やかな笑い声の響く「家族」の待つ場所へと歩き出した。

​(完)



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皆様、最後までお読み頂きありがとうございます。

主人公の勘違い暴走を楽しんで頂けたのなら幸いです。


この作品で初めて、星を貰いました。

嬉しさの余り、手が震えました。カクヨムでは、どうやってお礼をすればよいのか、わからないので、この場所で書かせて下さい。

まことにありがとうございます。


さらに、レビューと応援コメントも初めて貰いました。ありがとうございます。


初めて尽くしの作品で、私にとっても記憶に残る作品になりました。


改めまして、ありがとうございます。


この作品とは、テイストが全く違いますが、


マイルームダンジョン

https://kakuyomu.jp/works/822139842464376136

コツコツ強くなるダンジョンもの


逃げれば逃げるほど愛される呪いにかかった俺、至高の指先(ラスト・ピリオド・タッチ)で並行世界のヤンデレ美女たちを昇天させてしまう


https://kakuyomu.jp/works/822139842409080860

ちょっとエッッな異世界転移もの


も読んでいただけたら嬉しいです。




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お隣の「奥さん」に恋をした。 暇ジーン @kenpichi99

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