第4話:切り抜き職人、稼働
配信を強制終了させてから、十分後。
アイリスは、冷めた紅茶で喉を潤しながら、手元の通信用水晶を別の回路へとつないだ。
「――お疲れ様です、嬢ちゃん。いや、アイリス様」
雑音混じりの念話(音声通話)から、低い男の声が響く。
相手は、アイリスが裏で雇っている「切り抜き職人」のリーダーだ。
表向きは王都の下級貴族や、魔道具好きの集まり。だが、その正体は水晶ネットワークの“おすすめの仕組み”を読み解く実務者集団だった。
「状況は?」
アイリスの声は、先ほどの「可哀想な被害者」のものとは別人のように冷徹だった。
「上々ですよ。同時共鳴値は最大五千四百。深夜帯にしちゃあ異常だ。コメントの流れも、反発一割、困惑二割、残りは全部『同情』と『義憤』だ」
「素材は録れた?」
「ばっちり。あんたが最後に倒れたシーン、あれは最高の画(え)だった」
男がクツクツと笑う。
アイリスは表情を変えずに、次の指示を出した。
「じゃあ、作業に入って。ターゲットは『尺十五秒』」
十五秒。
それは、人間が深い思考をせずに、感情だけで反応できる限界の時間だ。
「方針は?」
「『文脈』を切り捨てて。前後の説明はいらない。私の『震え』と、王太子の『情熱』という単語、そして最後の『倒れる音』だけを繋いで」
事実は捏造しない。
だが、不要な部分を切り落とすことで、意味は劇的に変わる。
論理的な説明は、拡散の邪魔になるのだ。
「了解。……それと、気になる動きがあります」
「なに?」
「宮廷情報局の公式チャンネルが動いてる。どうやら、あっちも何か動画を出そうとしてるみたいですが……」
「放っておいていいわ」
アイリスは即断した。
王宮の役人たちは、手続きと検閲に縛られている。彼らが重厚な「釈明動画」を作っている間に、こちらは足の速い「感情」をばら撒く。
勝負は、スピードで決まる。
* * *
翌朝。
王都の通勤・通学時間帯。
人々の手元にある水晶端末に、一つの「短い映像」が流れ始めた。
タイトルは、『【速報】王太子殿下、激怒』。
十五秒の映像は、残酷なほどシンプルだった。
薄暗い部屋。
震えるアイリスのアップ。
『殿下は……情熱的な方だから……』
恐怖に引きつった表情。
『ごめんなさい、やめて……』
そして、唐突なカメラの揺れと、椅子が倒れる激しい音。
ガタンッ!
暗転。
そこには、「なぜそうなったか」という経緯はない。
あるのは、「怯える少女」と「暴力の気配」という、純度一〇〇%の感情だけだ。
──切り抜きコメント──
「うわ、本当かこれ」
「音こわっ」
「情熱的ってそういう意味?」
「朝から胸糞悪いわ」
「王太子、引くわー……」
「#アイリスを守れ」
──────────
昨夜の長尺配信を見ていない層が、この短縮版に反応した。
拡散の速度は、生配信の比ではない。
「考える」よりも先に《共有》の紋章が押されていく。
学園に向かう馬車の中で、アイリスは自身の端末を確認した。
再生数を示すカウンターが、目にも止まらぬ速さで回転している。
(来た)
彼女が待っていたのは、この瞬間だ。
個人の配信が、大衆の「話題」に変わる転換点。
その時、端末が大きく振動した。
画面全体を覆うように、金色の枠で飾られた特別な通知が表示される。
それは、水晶ネットワークを管理する「結晶ギルド(運営)」が、この動画を“優先的に勧める”と決めた証だった。
──結晶ギルド通知──
【おすすめ選出】あなたの動画が『王都エリア・急上昇枠』に掲載されました。
【表示強化】今後二四時間、王都エリアの水晶端末トップ画面に優先表示されます。
【流行】トレンド一位(継続):「#アイリスを守れ」
──────────
***
(後書き)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
切り抜き動画の恐ろしさと、アイリスの戦略に「続きが気になる!」と感じていただけましたら、
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次回、**『第5話:王太子、最悪の反撃』**
拡散する動画に対し、王太子側がついに反論を開始。しかし、選んだ手段は「文字」だけの公式声明で……? お楽しみに!
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