第14話 命令ーアゴー

 秋山沙織あきやまさおりは、苛立つ顔のまま携帯端末を掴む。

「出ないし!」

 今一度、携帯端末でメッセージを送るも、誰もが既読にならない。

 業を煮やして通話をしようと同じ。

 おまわりすら反応がない。

 ちょっと暴れん坊な団体と、楽しく野球をしていた事実をバラされたくなければ、即座に応えるべきだ。

 電波は通じるはずだ。

 通じているはずだ!

「さぼってんじゃないでしょうね!」

 今一度大きな苛立ちを露わにしたと同時、先の茂みからひときわ大きな揺れが起こる。

 風ではない。

 山は嘘のように静かだ。

 駒の男たちは雁首揃えて、面白そうにアホ顔をにやつかせている。

 どうやらど派手にイったのだろう。

 茂みの奥より手が伸びる。

 女の右手。

 手首のブレスレットからしてミサのだろう。

 指先を張りつめるように五指を伸ばすも、茂みの奥へと引っ込んでいた。

「あれはアツコね。ったく、ミサ、ほどほどにしときなさい!」

 叱り飛ばそうと、茂みから反応はない。

 顔一つどころか指先一つ出ない。

 無反応に端麗な顔立ちが歪む。

 いつもなら、一声かければ飛び出すというのに。

 駒のひとりに顎先で指示を出す。

 好きに

 だが、楽しむならゴミの次にしろ。

 ニタニタした下卑た笑みで、茂みに向かう駒のアホ面に呆れもしない。

 どうせ、伝えるだけ伝えて、お仲間に加わるつもりだろう。

 頭がバカなだけに、半身は超がつくほどバカ正直だ。

「うわあああああっ!」

「はぁ~」

 茂みから響く男の悲鳴に、沙織は諦観のため息しか出ない。

 邪魔をしたからを蹴り飛ばされたのだろう。

 便乗して楽しもうとするから罰、いや足が当たったのだ。

「ひいいいいいっ!」

 屈強な男が、なんとも情けない声で茂みから飛び出してきた。

 うるさいくらいに上腕二頭筋を自慢していた同じ男とは思えない。

「ま、マキ、タが、あいつ、らが!」

 まるで熊に出くわしたように顔をひきつらせている。

 目に涙どころか、鼻水まで垂らすなどキモイ。

 ここは福岡、熊なんて野生動物、存在するはずがない。

 顎先で使うのが面倒になってきた。

「どいつもこいつも!」

 沙織は後部シートから車外に飛び降りる。

 直に足を運んで、怒鳴りつけんとするためだ。

 命じてもいないのに、駒の男たちが随伴する。

「あんたたち、いい加減に、はぁ?」

 茂みの中から引きずり出すつもりだったが、誰もいない。

 致していたであろう痕跡は、地面に落ちた衣服や下着が証明している。

「どこ行った、うえ、雨まで降ってきた、キモ!」

 頬にしたたり落ちる水滴を駒の男の衣服で拭う。

 だが、布巾にした駒の様子がおかしい。

 衣服についた水滴ひとつで、うるさくいう玉ではないはずだ。

「あ、姐さん、こ、これ……」

 水滴が今度は手の甲に落ちる。

 ぬっとりとして生ぬるい水滴におぞましさが走り、手の甲を振り払う。

 だが、手の甲には、赤い滴が落ちることなく、こびりついていた。

「はぁ?」

 赤い水滴がまた落ちる。

 誰もが視線を引きつけられるようにして、ライトの光を追従しながら頭上を見上げていた。

「なによ、こ、れ……」

 一〇メートル先の木にて、三人仲良く抱き合う半裸の男女がいた。

 ただし後頭部から額にかけて脳天を枝に貫かれる形で。

 滴り落ちる水滴の正体は、頭上にいる三人から流れ落ちたものであった。

 ぼとりと、音を立てて三人から何かが垂れ落ちる。

「……はぁ?」

 長い長いは、垂れ幕のように三人の身体ハラから零れ落ちた。

 そして沙織の眼前で止まる。

「きゃあああああああっ!」

 人間誰もが持つ臓物、腸であると気づいたのは、伸びてから一〇秒後であった。


 アソンダアソンダアソンダ――

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