第4話 はじめての昼、特別な贈り物

​ 一夜明けた湖のほとり。幌馬車の中で目を覚ましたルナは、窓から差し込む明るい光に、思わずベッドのシーツへと潜り込みました。

「ま、まぶしいですわ……! シルフィさま、お日さまがわたくしを退治しに来ましたの!?」


​ そんなルナの慌てようを見て、朝食の準備をしていたシルフィは、くすくすと楽しそうに笑いました。

「ふふ、大丈夫よ。退治なんてさせないわ。……さあ、ルナ。これを付けてみて」


​ シルフィが差し出したのは、深い紅色の宝石があしらわれた、小さなコウモリの形の髪飾りでした。

「まあ、可愛らしい……。でも、わたくしに触れたら、この宝石も壊れてしまうんじゃないでしょうか、?」


「いいえ。これはね、あなたの溢れちゃう力を少しだけお預かりして、ぎゅっと閉じ込めてくれる魔法の道具なの。これがあれば、もうお花を枯らす心配もないわよ」


​ シルフィがルナの銀髪にそっと髪飾りを留めると、ルナの周囲を覆っていた禍々しい気配が、すうっと宝石の中に吸い込まれていきました。ルナがおそるおそる足元の草に触れてみると、今までは一瞬で枯れていたはずの双葉が、青々としたままピンと立っています。

「枯れませんわ……! わたくし、お花を殺さずに済んだのですのね……っ」


​ 感激で瞳を潤ませるルナの手を、シルフィは優しく握りました。

「さあ、準備の続きよ。次は太陽さんへの対策ね。……ちょっと待ってて」


​ シルフィは手近にあった柔らかな厚手の布を手に取ると、それをルナの頭からふわりと被せました。

「日傘を買うまでは、これで我慢してね。不格好かもしれないけれど、これなら日差しを遮れるわ」


「……なんだか、てるてる坊主みたいですわ。でも、これならお外も怖くありませんわね!」


​ 真っ白な布に包まれ、ひょこひょこと歩くルナを連れて、シルフィは活気ある街へと向かいました。初めて見る街の景色に、ルナは布の隙間から興味津々で目を輝かせます。

「シルフィさま! あの走っている四角い箱は何かしら!? あちらのお家は、わたくしのお城より高いですわ!」


​ すべてが新しいルナを連れて、シルフィは一軒の化粧品店に入りました。

「ルナ、これを腕に塗ってみて。現代の魔法『日焼け止め』よ。これを塗れば、お昼のお散歩も怖くないわ」


「ひゃっ、冷たいですわ! ……でも、いい匂いがしますのね」


​ 真っ白なクリームを鼻の先にちょんと付けたルナを見て、シルフィは微笑みながら彼女の頬にも優しく塗り広げました。そして最後に向かったのは、色とりどりの傘が並ぶ雑貨店です。

「ルナ、好きなのを選んでいいわよ。これからのお出かけの相棒になるんだから」


「えっ……よろしいのですか!? では……あちらの、フリルがたくさん付いた真っ黒なのがいいですわ!」


​ ルナが選んだのは、繊細なレースが施された、上品な黒い日傘でした。

 お店を出て、ルナはようやく頭の上の布を脱ぎ、自分の日傘をパッと広げました。

「見てくださいまし、シルフィさま! わたくし、これでお昼の世界の住人になれましたわ!」


​ 日傘をくるくると回しながら、ルナは初めて「太陽の下」を一歩ずつ踏みしめました。

 魔力を抑える髪飾り、お肌を守るクリーム、そして自分だけの日傘。

​ アンがいた頃には考えられなかった、新しい「お行儀」を身につけて。ルナはまぶしい光の中へと、勇気を持って飛び込んでいくのでした。

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