第8話 もっと、聞かせて。

あの日から数日後─。


秋もいよいよ終盤。

これを越えると、あの地獄のような冬がまだやって来るのだ。殆どの生物は冬眠の準備のため丸々と太っている。蓄えなければ、春陽を拝むことはできない。

そして、それは彼らも同じだった。


「ねえ、これ何処に仕舞えばいい?」


そう言って、ミュエットが薪を持ってくる。


「あ、それはそっちの部屋にお願い。」


そう言って、成海が奥の部屋を指差した。


「分かった。」


少し前まで、成海たちは洞窟で過ごしていたが、成海には思うところがあった。


不便だ。


特に、洞窟内は狭く2人で暮らすには少々窮屈である。キッチンに物置に寝室。それらの部屋を洞窟内に実現するとなると二人が過ごせるスペースは自然と限られる。


しかし、一番の問題は、やはりプライバシーだろう。勿論、洞窟内でも仕切りは置いていた。

しかし、それだけである。

たったそれだけで安心しろというのは些か無理なことだった。


「ふ〜。これ、終わるか?」


そのため、成海は建てることにした。家を。

元々、建てようとは思っていたのだが、断熱性。耐久性。そして、労力。などなど。

考慮するべき問題が多すぎたため断念したのだった。


しかし、それも過去の話。耐久性に関しては金属やレンガ。断熱性については、藁の袋詰めを断熱材代わりにするなどして、建築の目処を立てることができた。


「いやあ、それにしても邪鬼たちには感謝しないと。」


そう言いながら成海は壁を撫でた。

そう、この家を建てたのは邪鬼たちなのだ。あれから、邪鬼たちの集落との交流は続いていた。


この家は、その時に建てるのを手伝ってもらったものだ。


「今度、何かお返ししないと。」


そうやって、成海が物思いに耽っていると。


「ねえ!サボってないで運んで!」


ミュエットの鋭い声が響き渡る。


「ああ、ごめん。ごめん。」


現在は、その家への引っ越しを行っているところなのだ。


「あ、そうだ。まだ、運ぶものもあるし、荷台に乗ってく?」


「え、乗る。」


そう言うと、成海の引いてる荷車に、ミュエットは飛び乗った。


「おわ!」


後にいきなり荷重が加わり、荷車が傾く。


「いきなり乗るなよ!」


「ごめん。ごめん。…それにしても。」


ミュエットが成海の方を見る。


「何か、今の成海…馬車馬みたいだね。」


一応弁明しておくが、ミュエットに悪気は無い。


「は?」


「え?ああ、いや、特に悪気があるわけじゃなくて──。」

「そう思っただけだから。」


「ぶっ飛ばすよ?文字通り。」


「な、違っ。違くて、悪気があったわけじゃないの!」


「…ホント?」


「うん!ホント!」

「っていうか、成海が私の為に頑張ってくれるの嬉しいし。」


「……そっか。」


ミュエットの言葉を聞いて、成海は目を反らした。


─5時間後。


引っ越しが終わり、成海たちは新居のリビングで寛いでいた。


「ねえ?」


唐突に成海がミュエットに呼び掛ける。


「何?」


ミュエットは暖炉の炎を眺めながら呟いた。


「ちょっと、話していい?」


成海は揺り椅子を揺らしながら尋ねる。


「うん。」


「ありがと。」


そう言うと、成海は一拍置いた。

暖炉の炎のパチパチという音だけが、部屋中を満たした。


「君にとってさ。僕ってどう映ってる?」


「どう…。うーん。」


ミュエットは少し考え込む


「非常識。」


「え?」


「意地悪。」


「ああ、まあ。」


「意気地なし。」


「うう…。」


「だけど、─。」

「だけど、凄く強い。」


「…。」


「どんだけ辛くても、どんだけ過酷でも、絶対に諦めない。だから強い。」

「それに、優しい。」


「………。」


「どんな時だって、私の側に居てくれる。どんな時だって、私のことを助けてくれる。どんなことがあったって、私に寄り添ってくれる。」


成海が背もたれに体重を掛けると、ゆらゆらと前後に揺れた。


「私には、そう映ってるよ。」


ミュエットの話を聞き、成海は短く返す。


「そっか。」


日が落ちてきたからだろうか。

ミュエットには、成海の声色が何処か暗いように聞こえた。


「僕はそんなに立派な人間じゃないんだけどね。」


「……。立派?」

「成海は自分が立派だと思ってるの?」


ミュエットは誂うように言った。


「え?」


成海は、思わず素っ頓狂な声を出した。


「いや…成海が立派…ナイナイ!絶対無い!」


ミュエットは笑いながら言う。


「立派な人はね。女の子には優しくするし、ちゃんと常識を持ってるし、何より誰かをちゃんと頼るの。」


先程まで笑っていたミュエットの声は、段々と慈しむような声に変わっていった。


「だから、成海が立派なんてあり得ない。」


「……。」

「…いや、そこは肯定する流れでしょ?」


「だって、事実だもん♪」


「なんで、そんなに楽しそうなの?」


「だって、─。」


そう言うと、ミュエットは成海に近づき椅子ごと自分の方に向ける。


「成海が自分のことを話してくれたんだもん。」


きっと暖炉のせいだろう。

成海はミュエットの笑顔が何だか温かく思えた。


「だから、もっと聞かせて!成海のこと。」


そう言って、ミュエットは成海に近寄る。そして、膝のうえに腰掛けた。


「そこで?」


「うん。特等席。」


「…まあ、いっか。」


そう言って、成海は話し始めた。今までのこと。自分自身のこと。そして、元の世界のこと。


「どっから話そうか。」


成海はこれまでのことを思い浮かべる。


「まずは、──。」




───市街地。


「…!ねえ、ねえ!」


ガレルバ帝国へと向かう道中、補給のために寄った街で那妻が言った。


「どうしたの?」


「これ!見て!可愛くない?」


そう言って那妻が指差したのは、一つのアクセサリーだった。


「ホントだ〜可愛い!」


「欲しいのか?」


直人がそう聞くと、那妻はアクセサリーから目を外して言う。


「別に。ただ、かわいいなって思っただけ。」


那妻の反応を見た満希が直人に言う。


「分かってないね〜。直くんは。」


「何が?」


満希の言葉に、直人は不思議そうに尋ねる。


「乙女心だよ。今のなっちゃんはね。これ欲しいな〜。けど、欲しいって言うのは何か恥ずかしいな〜って状態なわけよ。」


「みっちゃん?」


「更に、こういうアクセサリーっていうのは好きな人に送って欲しいものなの。」


「みっちゃん?!」


「だからね、好きな人にわざわざ言っちゃうと、プレゼントの──。」


「わーわーわー!」


満希が最後の言葉を言い切る前に、那妻が満希の口を塞ぐ。


「…まあ、いいや。これ下さい。」


そう言って、直人はアクセサリーを購入した。


「ほら。」


そうして、直人は那妻にそれを渡した。


「え?いや、別に…。」


拒む那妻に直人は言った。


「着けてみて欲しい。那妻になら似合ってると思うから。」


「……へ?」


それを聞いた那妻は一瞬硬直した。


「〜〜ッ///」


そして、耳まで赤く染まった。


「いやあ〜。ごちそうさまです!」


満希は満足そうな表情を浮かべる。


「満〜希〜!」


那妻が満希をポカポカと叩く。


「ちょっ。好きな人に不意討ち貰ったからって私に当たらないでよ。」


「なっ//!違う!!」


満希の言葉に、更に真っ赤になった那妻は満希を追いかけ回す。


「待〜て〜!」


「あははは。」


そんな様子を見て、直人は思った。


「アイツら…元気にやってるのかな…。」

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