第9話 雪と氷の使い方。

雪化粧。

雪が景色全体に降り積もり、まるで化粧をしたようになっている様を表す。


今の光景が正にそれに当たる。


「うわあ。」


ミュエットが窓に張り付きながら驚嘆した。

というのも、この光景はとても珍しいのだ。この地方の冬はブリザードに見舞われることが多く。殆ど、外の景色を見ることができない。

それ故、ミュエットにとってこの光景は新鮮だった。


「成海〜。」


ミュエットはこの異常事態を共有すべく、成海を探しに行った。


まずは、キッチン。

いつもは、ここで料理などをしている。ここに引っ越す際に、設備の大幅改善を行った為。現在では、火力の調整を手元で操作できるようになっている。


「成海〜?」


どうやらここには居ないようだ。


次に、ボイラー室。

この部屋は地下に作られており、ここで建物の床暖房を焚く。また、この部屋は金属製の為何かが起こっても簡単には燃え移らない。


「成海?どこ〜?」


ここにも居ない。


次、倉庫。

この部屋には、様々なものが置かれている。

農具だったり、油だったり、材料だったり。食糧以外のものは大体ここに仕舞われており、その関係で、窓が無い。一応、外からも入ることができる。


「…成海?」


食糧庫。

そのまま。食料を保管する場所。倉庫と同じで窓は無い。また、外界からの影響を極力減らす為に壁は三重になっており、外壁と内壁の間に空間が設けられている。


「…成海。」


居ない。


そのまま、トイレや浴室なども探したが、当然いない。


最後は成海の寝室。


─コンコンコン。


ミュエットがドアをノックする。


「成海〜?入っても良い?」


返事はない。


「入るよ〜?」


ドアを開ける。

しかし、そこに成海は居なかった。


「なる…み?」


どうやら家に居ないようだ。

ミュエットは肩を落とす。


─二時間後。


「ああああ…着いた。」


成海が氷塊を引きずって帰って来た。


「あ、お帰り。」


そう言ったミュエットの方を見ると、雪で何かを作っていた。


「ねえ、見て見て!」


「えっと…これは…スピュー?」


「うん。」


スピューは元々、成海たちが飼育していた家畜だった。洞窟を主な生息地としており、鳥の特徴を持つ生き物だ。


「きっと…あの子たちもこんなに大きくなったんだろうなって思って。」


「…えっと、─。」


「ううん。」


成海がミュエットを慰めようとすると、ミュエットがそれを制する。


「まだ引きずってるわけじゃなくて、忘れたくないだけ。」


そう言うミュエットの目は、前向きなものだった。


「そっか…。」


「それにしても、成海はどこ行ってたの?」


ミュエットが尋ねると、成海は氷塊を小突く。


「これを採りに行ってた。」


「氷?」


「うん。これで食糧庫を冷やして冷却しようと思って。」


「ふーん。確かに、寒いと腐りにくいもんね。」


「そう。後、夏とかは、──。」


成海がそう言いかけたところで、顔面に雪玉がぶつかる。


「アハハハ!」


雪玉がハラハラと落ち、顕になった成海の顔を見て、ミュエットが笑った。


「変なの〜!」


「……。」


「アハッ!アハッ!アハハh──。」


ミュエットの顔面にも雪玉がぶつかる。


「フッ。お返しだよ。」


そう言って、成海は勝ち誇る。


「…やったな〜!」


そう言って、ミュエットは雪玉を投げ返す。

成海もそれに応じて投げ返す。


そうして、成海とミュエットの雪合戦が始まった。


─数時間後。


互いに雪をぶつけ合っていた二人だったが、体力が尽き、両者、地面に突っ伏していた。


「………。」


「………。」


「「……ぷふっ!」」


見つめ合っていた両者は、思わず吹き出してしまった。


「アハハハ。」「ハッハハハ。」


そのまま、二人は笑い続けた。


「いや、こんな事してる場合じゃない。」


そう言って、成海は立ち上がる。


「氷を中に運ばないと。」


「食糧庫に運ぶの?」


ミュエットも立ち上がって尋ねた。


「いや、地下に専用のスペースがある。」


「もしかして、あの扉?」


「うん。」


そう言って、成海はその場所へと向かった。


「ここ。」


そう言って、成海は金属製の扉を開ける。


「よいしょっと。あ、それ、そっちに置いて。」


部屋の壁は、石英で作られており、天井と床は格子状になっていた。また、いくつか柱が建てられており、無骨という言葉が良く似合う。


「この上に食糧庫があって、そこを下から冷やす感じだね。」


「じゃあ、食糧庫がさらに寒くなっちゃうってこと?」


「…まあ、そうなるね。」


「じゃあ、果物とかは凍っちゃわない?」


「多分、凍ると思う。」


「う〜ん…。」


「どうかしたの?」


ミュエットが苦い顔をするのを見て、成海は不思議そうに尋ねる。


「いや、成海は嫌じゃないの?」


「え?何が?」


「果物が凍るの。」


「別に…。夏とかだと特にうれしい。」


「ええ…。」


ミュエットがこんな反応をするのは、文化の違いによるものだ。ミュエットの故郷では、冷えた食べ物を好まない傾向がある。そのため、どんな食べ物も温めて食べる。

そのため、果実などは水っぽくなってしまうのだ。


「逆にミュエットは嫌なの?」


「あんまり好きじゃない。冷たいものは食べたことないし。」

「飲み物とかは良いけど、食べ物は冷たいとあんまり食べたくない。」


「ふーん。分かった。取り敢えず、果物はキッチンの方に置いとく。」


「ありがと。」


そうして、氷を運び終えたミュエット達は暖炉で暖まっていた。


「寒い…。」


ミュエットが震える。


「沢山、雪を浴びたから。」


「成海のせいだ。」


「お互い様だって。」


そんな感じで話していた二人だったが、唐突に成海が顔を上げる。


「そうだ!渡したい物があったんだ。」


そう言って、成海は寝室に入っていった。


そして暫くして、小さな木箱を持って戻ってきた。

そして、それをミュエットに渡す。


「何これ?」


「開けてみて。」


そう言われ、ミュエットが開くと、中にはペンダントが入っていた。


「え、これ…。」


「いやあ、頑張ったよ〜。こんなに小さくて細かいのは初めてだからさ、──。」


成海がダラダラと苦労話を述べるが、それを気にせずミュエットは、そのペンダントを眺める。


「──。」


そのペンダントには、小さな宝石と少し大きめの宝石が星と三日月の形であしらわれていた。

そのせいだろう、ペンダントとしては少し重い。


「ミュエット?」


「へ?」


思わず、見惚れていたミュエットだったが、成海の言葉で気が付いた。


「えっと、着けてみて欲しい。」


「え、ああ、うん。」


ミュエットはペンダントを首から下げる。


「…どう…かな?」


ミュエットは心配そうに尋ねる。


「うん。似合ってる。」


成海がそう言うと、ミュエットは気恥ずかしそうにペンダントを見つめる。


そして、一言。


「成海。ありがとう。」


と。




──大図書館。


「どうだ?何かあったか?」


本を読み漁っている那妻に、直人が尋ねる。


「う〜ん。それっぽい記述はあるんだけどねぇ。」


那妻は本の一部を指差して言う。


「ほら、これ。瞬間移動について書かれてる。」


「瞬間移動…。転移って、そんな次元じゃないだろ。」


「まあ、そうだけど…こっち。」


そう言って、那妻はもう一つ本を開く。


「これ、魔力による空間への干渉方法について書かれてる。」


「あー。つまり、この二つを組み合わせると…って話か?」


「う〜ん。専門家じゃないから…。」


那妻はそう言って渋い顔をする。


現在、彼らは異世界からの帰還方法について調べていた。


「そう言えばさ、転移の時の景色って覚えてる?」


「転移の時…確か、世界が虹色になって…そっから覚えてないな。」


「うん。そうだよね〜。」


那妻は残念そうに言った。


「こればっかりは満希が居ないとな…。」


「うん、早く戻ってきて欲しい…。」


今回、ここの大図書館を借りるにあたって、所有者である賢人会と、とある取引をした。それが、満希の魔法についての知識を教えること。


そのため現在、魔法担当の満希がいない状態での調査というわけだ。


「そうだ、俺の方でも少し見つけたんだけどな。」


そう言って、直人はとある本を那妻に見せた。


「う〜ん。うん?」


その本の中で、那妻は興味深い文を見つける。


「時空間魔法。エルゲート。異空間に繋がる門をつくり、両界での行き来を可能にする魔法…。」


「ああ。」


「え?これじゃね…。」


那妻は目を丸くする。


「いや、この魔法は異界と"繋ぐ"だけで、その世界用に物質を合わせてはくれない。」


「え?どういうこと?」


「異世界である以上、物理法則は基本異なる。だから、異なる物理法則に物質自体を対応させなければいけない。そのため、──。」


「う…う〜ん?」


那妻の困惑したような表情を見て、直人は説明を噛み砕く。


「まあ、簡単に言うと、この世界の物質は他の世界に存在できないってことだ。」


「まあ、うん。うん。」


「それに、この魔法は理論段階みたいだからな。」


「じゃあ、まだ無いってことね。」


「ああ、だが、少なくともこの理論が世に出た。その事実だけでも収穫だ。」


「ふーん。」


「まあ、そこら辺も含めて満希に見てもらおうか。」


「うん。みっちゃん早く帰ってこないかな〜。」


そうして、二人は満希が戻ってくるのを待ち続けるのだった。


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大魔王の育て方。 レウロ @leu-lo

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