第7話 選択の代償とその応酬。

「うん。助けてあげる。だから、待ってて。」


そう言って彼女が居なくなってから、いくら経っただろう。きっとたくさんだ。


「ミュエット。来ない。ミュエット。遅い。」


邪鬼の一人がそう言った。


「トロール。食糧。奪う。」


「ミュエット。待つ。言った。」


邪鬼たちにとって、待つというのはとても勇気のいる選択だった。しかし、邪鬼たちも馬鹿ではない。自身の体高の二倍程もある相手と戦って勝てるわけがない。そんな事は分かっている。だからこそ、ミュエットに縋ったのだ。


「助け。来る。関係。無い。」


邪鬼の一人がそう強く言った。


「子ども。飢える。絶対。ダメ。」

「子ども。大事。ミュエット。関係。無い。」


彼はそう断言した。

ぽつぽつと周りから同調の声が上がる。

もう、殆ど襲撃ムードになっている。そんな時だった。


「待って!」


そう、辺りに甲高い声が響き渡る。


邪鬼たちが振り返ると、そこには荷車を引っ張る成海とミュエットの姿があった。


「食糧ならここにあるから。だから、襲うのは駄目!」


そう言って、ミュエットが荷車を指さす。

その隣で成海は、折畳式の机を広げその上に料理を並べる。


「そんなに量はないけど、みんなが食べれる分はあるから。」

「みんな、一列に並んで。」


ミュエットがそう言うと、邪鬼が一人、成海の方へと近づく。


「えっと、確か…『どうぞ』でいいかな?」


「……。」


邪鬼は成海から料理を受け取ると、少し離れたところで一口食べた。


「!」


もう一口。もう一口。

そうして、どんどんと食べ進めていく。


それを見た他の邪鬼たちは、成海の前に一列に並んだ。中には、家から子どもを連れてくるものも居た。


「美味しい!これ。美味しい。」


「ご飯。久しぶり。」


辺りには、沢山とはいかないがそれなりの数の邪鬼たちが集まり、久々の食事に舌鼓を打っていた。


「そう言えば、こいつらって肉食なの?」


成海がミュエットに尋ねる。


「雑食。」


ミュエットが答えると、成海は言った。


「なら、農耕を教えてみたら?」


「…いいかも。」


成海の提案にミュエットは同意する。


「ねえ、聞いて。」


ミュエットは、邪鬼たちに話す。


「今回、みんなが飢えてたのは食べものが無かったから。」

「だから、次も食べ物が取れなくなるときが来ると思う。そして、みんな飢えると思う。」

「そうならないために、みんなに食べ物の作り方を教えるから。」


「食べ物。作る。トロール。同じ?」


「ううん。トロールのやつよりももっといい方法。」

「まずは、─。」


そうして、ミュエットは邪鬼たちに農耕の仕方を手取り足取り教えた。


─数時間後。


「あー。疲れた〜。」


そう言いながら、ミュエットが成海のもとに戻って来た。


「あ、ちょ。引っ張らないで。」


「成海。成海。」


「遊ぼ。遊ぼ。」


子どもの邪鬼たちが成海に群がっていた。

成海は、少々困ったような表情を浮かべるが、気に入られるのに悪い気はしなかった。


「ん…。」


その光景を見ていたミュエットは、少しモヤモヤとした感情を覚える。


「ねえ、成海!」


ミュエットは子邪鬼と成海の間に、割って入った。


「やる事は、やったし…さ。もう、帰ろ。」


ミュエットは、成海にそう言うと歩き出した。


「え、あ、う、うん。」


成海は少々動揺しながら答える。


「えっと、ごめんね。また来るから。」


そう言って、成海はミュエットの方へと向かった。


「ねえ、なんで怒ってるの?」


ミュエットの後を歩きながら成海が尋ねる。


「は?怒ってない。」


そう答えるミュエットの語気は、所々荒れている。


「いや、怒ってるじゃん…。」


「いや、だから怒ってないって!」

「成海が他の人にデレデレしてても関係無いから!」


そう言ったミュエットは、咄嗟に口を塞いだ。

しかし、吐いてしまった言葉は消えない。


「…ふ〜ん。」


成海はニヤニヤしながらミュエットを見る。


「…なっ!違っ!違うから!」


「そっか、そっか、ふ〜ん。」


「ホントに違う!ホントに違うから!」


「…フッ。ま、それは良いとして─。」


成海はそう言うと、先程までの茶化すような表情を辞めてミュエットに尋ねた。


「で?結局、これで良かったの?」


「…何が?」


「邪鬼たちにあげたお肉のこと。」

「あの子たちをお肉にするのは嫌って言ってたじゃん。」


「ああ、う〜ん。」


ミュエットは暫し考え込む。


「…正直な話。後悔はしてる。というか、後悔しかしてない。」


「おぉう…。」


「今日初めて会ったような人たちの為に、あの子たちを犠牲にするなんて、納得してない。」


「じゃあ、何で?」


「…きっと、これが正しいことだから。」


「…そっか。」


成海はミュエットの答えを聞き、満足気な表情を浮かべる。


「ねえ、私って間違ってないよね…?」


「うん。間違ってないよ。」


「…。そっか。…そうだよね。」


「…よく出来ました。」


そう言って、成海はミュエットの頭を優しく撫でる。


「……。」


ミュエットの表情が少し和らいだ。




──とある街外れ。


「それじゃあ、みんなありがとね。」


そう、馬車の中から真菕は言った。


「ああ。まあ、何かあったら、そのベルを鳴らしてくれ。」


「これ?」


そう言って、亜衣が金属質な赤色のベルを持ち上げる。

すると、


─チリン。


と二つ。音が鳴った。


「そう、それが鳴らされると、うちらの持ってる─。」


そう言って、満希は色違いのベルを取り出して見せた。


「このベルも連動して鳴る。」


そう言って、満希が青色のベルを鳴らす。


─チリン。


「逆もしかりね。」

「まあ、私の魔力で動くから、私が死んだらただのベルだけどね。あはっ。」


そう言って満希が笑うが、他3人は苦笑いを浮かべる。


「…え?あー。兎に角、向こうで何かあってもそれを鳴らして。助けに行くから。」


「ああ。」


満希の言葉に直人が頷く。


「それじゃあ、そろそろ行くね。」


「うん。またね!」「また。」


「バイバ〜イ。」


そう言うと、彼らを乗せた馬車は走り出す。

向かう先は、王都、エリーデ。彼らが勇者としてこの地に召喚された場所。


国王と勇者間の契約に基づき、送られた彼らは丁重に保護される。そして、この世界で生きていけるだけの力を与えられるのだ。


もう馬車が豆粒ほどになってしまった頃。直人が呟く。


「良かったのか…?見送らなくて。」


「うん。あんな姿を見た後だと、ちょっと会いづらくて…。」


「そうか。」


そう、直人は悲し気に相槌を打った。


「まあ、それは良いとして─。」


そう言って、那妻は表情を引き締める。


「調査した結果だけど、今回、亜衣ちが攫われた件だけど、あの町貴族たちは関係なかったよ。」


「へ〜。んじゃ、ホントに盗賊団が─。」


「ただ─。」


満希が安堵しようとしたところを、那妻の言葉が遮る。


「今回のアドミア盗賊団の取引相手を調べてみたんだけど、そしたら…。」


「そしたら?」


「ガレルバ公社。つまるところ、帝国。」


「…。」


その言葉に、全員が息を呑む。

帝国。ガレルバ帝国。最近になって、台頭してきた新興国家だ。技術力の発展が凄まじく、新興国とは言われているものの、既に王国よりも優れた技術を持っている。


「帝国…。てことは…。」


満希が顔を引きつらせる。

それも、帝国の発展の実態としては、他国からの技術盗用や、犯罪組織を介した他国への攻撃等によるものであり、危険な国家として各国から警戒されている。


「そうか。分かった。」


「どうする?王国に報告する?」


「いや、王国には伝えない。恐らく、王国内にも工作員がいるはずだ。下手に動けば、アイツラらを人質に取られるかもしれない。」


「分かった。」


「けど、じゃあ、どうするの?」


そう言って満希が直人の方を見ると、直人は言った。


「そんなの決まってんだろ。」


直人はニヤッと笑った。


「俺らで助け出すんだよ!」

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