第5話 見習い錬金術師、成海。

「ねえ?これは今、何をしてるの?」


石を土器に入れて焼く成海に、ミュエットが尋ねる。


「ちょっと、調べたいことがあってさ。」


「調べたいこと?」


「時代を一歩進めるもの。今が石器時代だとしたら、鉄器時代。即ち、この世界での鉄。まあ、金属だね。それを見つけたい。」


「鉄?あ、歴史の授業でやったかも。昔は色んな道具に使われてた素材…だったっけ。今は、もう魔晶石に全部置き換わったんだよね。」


「魔晶石…確か、魔力に反応する石だったよね?」


「うん。その中でも魔力を加えると柔らかくなる魔晶石があって、それを使って色々作るみたい。」


「まあ、今はそれ用の魔法器がないからどうしよもないけど…。」


「まあ、頑張って。私はあの子たちの様子を見てくる。」


─養鶏場。


「よしよし。ゆっくり食べるんだよ〜。」


そう言ってミュエットが餌を与えると、鳥たちが一気に食らいつく。

彼らは元々、洞窟に潜んでいる生物で臆病な性格をしている。また、食性は雑食性で殆ど何でも食べられる。その点から家畜として最適であり、結構前から飼育を行っている。


「んふ。もう、可愛いんだから〜。」


ミュエットはそのやや大きめの身体を撫でる。


─キュ〜!


その生物は、心地良さそうな鳴き声をあげる。


「んふふ。」


ミュエットは、思わず笑みを零す。ここ最近のミュエットの楽しみの一つだ。最初彼らを見た時、ミュエットはこう言った。


『え、気持ち悪い。』


と。

だが、それも昔のこと、暫く世話をしていくうちに、段々と愛着が湧いてきたのだ。それに加え、彼らもミュエットに慣れ始め、段々と人懐っこさを増していった。


時には、体調を崩すこともあった。

その度に、まともに医療技術のない中手探りで、付きっきりの看病をした。


時には、群れの中で虐められる個体も居た。

そんな彼らが、群れに上手く馴染めるように色々と環境を整えた。


時には、出産にも立ち寄った。

まともな知識もなく、時には子供が、母親が、死にかけるようなこともあった。しかし、必死に介抱をして、何とか助けることができた。


しかし、そんな困難を乗り越えて、彼らは今日も健やかに過ごしている。

ミュエットにとってそれは、何にも代え難い喜びであった。


因みに、彼らは食用である。


─一方、成海。


「………。」

「無理だ〜。」


彼これ数時間、様々な石や砂を加熱しているが、全くもって変化が無い。


「熱が足りないのか〜?」


成海は、現実世界での製鉄方法についての記憶を思い起こす。


「うーん。ん?」


成海は、あることに気づく。


「あ、そう言えば、砂鉄を精錬するときって、炭と一緒に加熱してたかも。」


成海は、複数の素材の組み合わせを一緒に加熱してみる。


すると、とある砂と石の組み合わせで変化が起こる。


「へ?」


石についた砂が真っ黒に変わり、石全体を覆ってしまった。


「お、まさか?」


成海は、かまどからその石を取り出して水で冷やす。


─ジューッ!


激しい音を立てて、水が液体から気体へと変化する。


暫く、冷やしてからそっと触れてみる。


「よし。」


触れた拍子に外側の黒い皮がはがれる。すると、中から黒色ではあるが、確かな輝きを持つものが現れた。


「お〜!」


成海はその様子を、革で出来た記録用紙にに記載する。


「よし!よし!よし!」


その調子で、成海は同じ様に変化していく素材の組み合わせを発見した。


─数時間後。


「成海?どう?」


ミュエットが養鶏場から帰ってきた。

成海は、ミュエットにできたものを見せる。


「こんな感じ。」


「おお、結構作れたね。…うん?」


成海が作ったものを見ていたミュエットだったが、とある石を取り出し眺める。


「あ、これ…魔晶石じゃん。ん〜。でも、黒いのは珍しいね。」


「そうなの?」


「うん、黒っぽいのはあるけど、真っ黒は初めて見た。」

「なんか、こう魔力が吸い取られる感じがする。」


「それ大丈夫なの?」


「あー、吸い取られると言うよりは、流れやすい感じ?流しても変化しないところを見ると、溜まってるのかな?」


「ふ〜ん。」

「ってか、これも魔晶石だ。」


「え!まじ?」


そう言う風に、ミュエットと成海は魔晶石とそれ以外とを仕分けた。


「まじか、魔晶石がこんなに含まれてるなんて…。」


「うん。すごい。」


「まあ問題は、残りの中にお望みの石があるかって話だけどね。」


「まあ、ゆっくりやってけばいいよ。」

「取り敢えず、ご飯〜。」


「はい。はい。」




──とある宿。


「二人とも。大丈夫?」


「うん。」


「まあ。」


満希の問いかけに二人は、苦笑いを浮かべる。


「それじゃあ、話せることで良い。聞かせてくれないか?今までの話を。」


直人の要求に二人は話し出した。


「まず、私たちは──。」


彼らは最初、バラバラのところで目を覚ました。


亜衣は、孤児院。真菕は、鉱山。


亜衣は、生き倒れとして孤児院に保護されていた。衣食住を与えられ、更に、この世界の言語についても学習の場が与えられた。


食事は質素だし、現世と同じ様な自由は無い。


しかし、孤児院の大人たちは優しく。子供たちも友好的に接してくれる。

この生活も悪くないのかもしれない。

亜衣はそう思っていた。


亜衣は、異世界から来たということを活かし、自身の異世界の知識を貴族や、学者などに話したりして、報酬を貰っていた。

そして、いつかあの孤児院に恩返しをしよう。そんな思いで日々を過ごしていた。


だが、そんな日々は唐突に奪われる。


アドミア盗賊団。

彼らによって孤児院の子供たちが狙われたのだ。

幸いにも、孤児院の子供たちは守られ、一人も誘拐されることはなかった。

が。

亜衣はその日、所要により外出していた。そして、孤児院に帰宅した時、運悪く逃走中のアドミア盗賊団と鉢合わせてしまった。

彼らは一目見て分かったのだろう。絶好の獲物を前にした彼らは、逃げながらでも彼女を捕らえた。亜衣の抵抗は殆ど無に等しかった。


そして、亜衣がアドミア盗賊団に捕まってから、数日後。真菕が亜衣の隣の牢に放り込まれた。


──真菕が目を覚ますと、そこは坑道だった。


しかし、一切人の気配がしない。真菕は暫く、彷徨った。薄暗い洞窟の中を。一人。


──何日、歩いただろうか?


真っ暗な洞窟の中では、時間感覚がはっきりしない。


口の中がじゃりじゃりする。


だけど、何故だろうか。

全く身体が疲れないのだ。

空腹と渇きはずっとあるのに、不思議と身体は軽い。


しかし、真菕にはそれは、苦痛でしか無かった。

常に続く渇きと空腹。

それが、疲れが来ないことによって、一切の時間感覚が失われ、永遠とも思える長さに感じられた。


「あ。」


だが、そんな時、一筋の光が見えたのだ。

比喩では無く。実際の。

真菕は無我夢中で進んだ。


そして、ついに光の発生源にたどり着いた。


人だ。人が居る。


「あ…の!」


真菕は久方ぶりに声を発した。

男たちが振り返る。


「助けてください!」


男たちが顔を見合わせる。そして、尋ねた。


「お前、どっから来た?」


「あ、あの僕、ずっと遭難してたんです。」


「は?」


「えと、いきなりここに、気づいたら教室じゃなくて──。」


真菕はひどく混乱していた。

必死の説明は支離滅裂だった。

それもそのはず、真菕の精神は限界だった。何日間も一人で暗闇を彷徨っていたのだ。無理も無い。


「なあ。─。」


男の一人が仲間に耳打ちする。


「コイツ。あの女と同じ転移者じゃねえか?」


「確かに、それなら言葉が変なのも合点がいく。」


「それなら…。」


男たちは話し合いを終えると、薄汚い笑みを浮かべる。


そして次の瞬間、真菕が目覚めたのは牢の中だった──。


「それで、そこがアドミア盗賊団のアジトだったって訳か。」


「うん。その後は、君達が助けに来てくれたって感じ。」


真菕と亜衣の話を聞いて、二人は反応に困った。


正直な話、こんな話を聞くのはこれが初めてではない。他にも何回かクラスメートを救出したことがあるが、その度にこんな話を聞くのだ。


暫く沈黙が続いたが、真菕がそれを破る。


「…まあ、色々あったけどさ。」

「取り敢えず、助けてくれてありがとう。そして──。」


そして、真菕が一拍置いて言う。


「また、会えて嬉しい。」


そう言った真菕はにっこりと微笑んだ。

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