魔王城の保育園は今日もてんやわんや ~最強スキル「アイ バブ ユー」で魔王様をバブ堕ちさせ、100均グッズを神器と崇められながら、今日も楽しく育児してます~
第6話 1月14日「タロとジロの日」 ソリ滑りは『氷狼の高速機動』
第6話 1月14日「タロとジロの日」 ソリ滑りは『氷狼の高速機動』
暖かい保育室の中で、私は壁に掛かったカレンダーを見上げていた。
「えーっと、今日は……1月14日ですね」
これは、私がスキル『
不思議なことに、この世界と日本の暦は完全に同期している。
異世界あるあるご都合主義だ。
1月14日の欄には、小さく豆知識が書かれている。
『タロとジロの日(愛と希望と勇気の日)』。
1959年、南極観測船が、置き去りにされた樺太犬のタロとジロとの奇跡の再会を果たした日だ。
「懐かしいなぁ……」
子供の頃、お父さんとお母さんと一緒に、家のリビングでDVDを見たっけ。
『南極物語』。
厳しい氷の世界で、ワンちゃんたちが健気に生き抜こうとする姿に感動して、家族みんなでボロボロ泣いてしまったのを覚えている。あの映画を見てからしばらくの間、散歩中の犬を見るだけで涙ぐんでいたものだ。
そんな思い出に浸りながら、私はふと、ある二人の顔(?)を見た。
足元で丸くなって寝ている双頭の犬型魔物――オルトロスのベル&ロス兄弟だ。
彼らは二つの頭と一つの体を持つ。
右の頭が兄のベルくん。耳がピンと立っていて、活発でリーダー気質。
左の頭が弟のロスくん。耳が少し垂れていて、マイペースでお調子者だ。
「ワン……ムニャ……」
彼らは一つの大きなクッションを共有して、仲良く身を寄せ合って眠っている。
タロとジロも兄弟だったはず。
今日の読み聞かせは、これに決まりね。
◇
お昼寝から目覚めた子供たちは、窓の外の雪景色を見て大はしゃぎだ。
「わあ! まっしろだ!」
「ゆきあそびしたい!」
炎竜のリュウくんや、魔王の娘アリスちゃんがぴょんぴょん跳ねる。
ベル&ロス兄弟も、ブルブルと体を振るわせて起き上がった。
「バウッ!(外に行こうぜ!)」と右のベルくん。
「ワン!(寒いけど遊ぶ!)」と左のロスくん。
「はいはい、お外に行く前に、一つお話がありますよ」
私は子供たちを集めて、椅子に座らせた。
そして、100均から取り寄せた『感動動物シリーズ:南極物語の絵本』を取り出した。
「今日はね、寒い雪の世界で頑張った、二匹の勇敢なワンちゃんのお話です」
私がページをめくると、吹雪の中で寄り添う二匹の犬の絵が現れた。
「名前はタロとジロ。とーっても寒い氷の大地に、どうしても置いていかなくちゃならなくなったんです……」
私が物語を読み進めると、子供たちは真剣な表情で見入った。
特に、ベル&ロス兄弟の食いつきようは凄かった。
四つの目をカッと見開き、耳をピクピクさせている。
「……そして一年後。迎えに来た人たちは、二匹の犬が元気に生きているのを見つけました! タロとジロは、兄弟で力を合わせて、厳しい冬を生き抜いたのです!」
私が本を閉じると、ベル&ロス兄弟が「ウォォォォン!!」と感動の遠吠えを上げた。
「ワ、ワンッ!(すげぇ! すげぇぞタロジロ!)」
「バウッ!(俺たちもやるぞアニキ! 俺たちも雪山を制覇するんだ!)」
二つの頭が互いの頬をスリスリと擦り付け合っている。
兄弟の絆、ここに極まれりだ。
「よし! それじゃあみんなで、南極ごっこをしに行きましょうか!」
私は虚空に手をかざし、雪遊びの必需品を取り出した。
真っ赤なプラスチック製の『ヒップスライダー(雪用そり)』と、『雪玉製造器(アヒル型)』だ。
「ヒッ……!!」
いつものように、部屋の隅で園医のスカル先生(リッチ)が、赤いそりを見て悲鳴を上げた。
「ヒナ先生……その赤き流線型の物体は……! 伝説の『血塗られた高速艇』か!? あれに乗れば、雪原を音速で滑走し、乗る者の魂を彼岸へと運ぶという……!」
「そりです。坂道を滑って遊ぶやつです」
「なんと……重力加速度を利用した特攻兵器か!」
私はスカル先生の解説をBGMに、子供たちに上着を着せて園庭へと飛び出した。
「うひょー! 冷たい!」
「ゆきがっせんだー!」
中庭にはうっすらと雪が積もっている。園庭の築山(つきやま)は、ちょうどいいゲレンデになっていた。
アリスちゃんやリュウくんは、そりを抱えて山を登っていく。
そんな中、ベル&ロス兄弟は違った。
彼らは自分たちの体に100均の『荷造り用ロープ』を巻き付け(私が手伝った)、その後ろに大きめのそりを連結させていた。
「グルルッ……(俺たちは南極探検隊の犬だ……)」
「ハッ、ハッ……(客人を運ぶのが任務だ……)」
彼らは完全に「タロとジロ」になりきっている。
そして、そのそりには、スライムのプルちゃんが鎮座していた。
「ぷるぷるぅ!(ボク、お客さん!)」
「いくぞロス! 吹雪をつっ切れ!」
「了解だベル兄! 全速前進!」
ダダダッ!!
ベル&ロスが猛ダッシュを開始した。
さすがは魔界の番犬種族。四本の足は力強く雪を蹴り、そりは雪煙を上げて爆走する。
「おぉぉ……見事な連携だ」
見守っていた影魔族のザックさんが感心している。
「右の頭が方向を確認し、左の頭が足元の障害物をチェックしています。一つの体とは思えないほどスムーズな走り……これが『ケルベロス』の片鱗か」
ベル&ロスは園庭を縦横無尽に走り回った。
途中、カーブでそりが遠心力で振り回され、プルちゃんがポーンと飛んでいったが、「ぷるぅ!(たのしー!)」と雪山に刺さっていたので問題ないだろう。
しかし、調子に乗りすぎた彼らの前に、試練が訪れた。
「アオーン!(ここを越えれば基地だ!)」
「ワン!(ショートカットだ!)」
ベル&ロスは、何を思ったか園庭の隅にある植え込み(現在は雪で埋まって小さな雪山になっている)に突っ込んだ。
そこは雪が深くて、フカフカの新雪地帯だ。
ズボッ!!
「「ギャンッ!?」」
二つの頭と前足が、同時に雪の中に突き刺さった。
深い新雪に足を取られ、体半分が埋まってしまったのだ。
もがけばもがくほど、雪が体にまとわりつく。
「ワンワン!(動けない! 遭難だ!)」
「バウッ!(兄ちゃん、足が抜けない! 寒い!)」
自称・南極の勇者たちは、開始10分で遭難してしまった。
それを見ていたリュウくんたちが駆け寄ってくる。
「たいへん! ベルくんたちがうまった!」
「たすけてあげなきゃ!」
アリスちゃんたちが、アヒル型の雪玉を持って集まってきた。
いや、雪玉で助けるのは無理ですよ。
「もう、無茶するからですよー」
私が助け出そうとした時、雪の中から二つの頭が声を掛け合った。
「……ロス、大丈夫か? 俺の体温を分け与えてやる!」
「ベル兄……ありがとう。俺たちは繋がってるから、兄ちゃんの心臓の音が聞こえるよ……」
「諦めるな! タロとジロはもっと寒い中で耐えたんだ!」
「おう! 俺たちだって、ひだまり保育園最強の兄弟だ!」
雪に頭を突っ込んだまま、なにやら熱い兄弟愛を語り合っている。
体は一つだから体温も共有しているはずだけど、気持ちの問題らしい。
「よしよし、頑張り屋さんですね。でも、寒いから出ましょうね」
私はスキップ(100均スコップ)で周りの雪を掘り、彼らを引き上げた。
ポンッ、と雪から出た二人は、ブルブルと体を振るって雪を飛ばした。
「復活だ! 見たか、俺たちの生命力を!」
「地獄の淵から蘇ったぜ!」
大げさなことを言っているけれど、鼻先は寒さで真っ赤(というか真っ青?)だ。
私はタオルで二つの頭をワシャワシャと拭いてあげた。
「風邪引いちゃいますから、お部屋に戻って温まりましょうね」
私が【
「バウゥ……(先生、あったかい……)」
「クゥン……(これが生きる喜び……)」
結局、彼らは私の足元で、また二つの頭をくっつけ合って丸くなった。
その姿は、本物のタロとジロにも負けないくらい、仲良しで温かかった。
スカル先生が「双頭の魔獣が『融合と分離』の概念を超越し、真の愛に目覚めた瞬間だ……」と涙ぐんでいたけれど、まあ、それもあながち間違いじゃないかもしれない。
————————
【連絡帳(ベル&ロスくん)】
ヒナより保護者様へ
今日は雪が降っていたので、お部屋で「氷の国で頑張った犬の兄弟」のお話をしてから、お外でそり遊びをしました。
ベルくんとロスくんは、そのお話にとっても感動したようで、「俺たちもあんな兄弟になるんだ!」と張り切ってそりを引いてくれました。
途中、深い雪にハマってしまうハプニングもありましたが、二人で声を掛け合って(?)励まし合っている姿は、とても兄弟愛に溢れていましたよ。
今はストーブの前で、二人くっついてぐっすり眠っています。お家に帰ったら、温かいご飯をたくさん食べさせてあげてくださいね。
母(門番長の妻)より
いつもお世話になっております。
帰宅するなり、二人が「母ちゃん! 俺たちはタロとジロだ!」と言って足元にまとわりついてきました。タロとジロというのが何者かは存じ上げませんが、よほど勇敢な戦士だったのでしょうね。
あの子たちは普段、ご飯の取り合いで喧嘩ばかりしているのですが、今日は珍しく一つの皿から交互に食べていました。
「俺たちは一心同体だ」なんて言ってますが、元々体は一つだっつーの(笑)。
でも、仲が良いのは見ていて嬉しいものですね。先生、素敵なお話をありがとうございました。
追伸:夫(門番長)がそれを聞いて、「俺の三つ目の頭は仲間はずれなのか……?」と少し拗ねていました。面倒くさい男です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます