第4話 尾行

 桜は尾行されているなどと露知らず、公園を抜けるとそのまま真っ直ぐホテル「フロンティア」に向かった。

 フロンティアは完全予約制、飛び込みの客など絶対に泊めない敷居の高かさで有名な八生道市指折りの高級ホテル。バロック調の宮殿を思い浮かべる作りのエントランスに桜が近寄ると、よく訓練されたボーイがさっと出迎えて恭しく挨拶してくる。桜はその扱いを空気を吸うが如く受け入れ軽く挨拶を返している。

「いいとこのお嬢様ってとこかな。今日は塒が分かったところで帰るか」

 その様子を向かいのビルの影から見ていた俺はお近付きになる作戦を練るべく今日はもう帰ろうとした。だが、その目の端に一種気配の違う男達がエントランスに入っていくのが見えた。

 彼らはスパイのコスプレでもしてるのかと錯覚する黒服サングラスで身を固めた男が3人と、先頭に立ち野獣の気配を発散させる男が一人の計四人。最初は男達を制止しようとしたボーイだったが、男達と少し問答をするとあっさりと中に入れた。

「なんだ?」

 異質は異質を呼び寄せる。そんな言葉と共に俺は桜が思い浮かんだ。

 幸運の女神が手を差し出した!

 俺は直感し、このチャンスを逃がすものかと走り出していた。走り出してから考えていく。

 サングラスに白のトレンチコート、奴等の仲間に見えないことはないな。

 エントランスに入ろうとした俺の前を案の定ボーイはさっと塞いだ。

「どけっ邪魔だ」

「しかし」

 俺の高飛車な一喝に困惑しながらも訓練が行き届いたボーイは道を空けようとしなかった。

「私は急いで合流しないといけないのだよ。それとも何か、遅れた責任をお前が取ってくれるのかね。どうなんだね、答えたまえっ」

 一気に捲し立て、ボーイを狼狽させ、思考させない。思考させたら負けだとばかりに、俺はサングラスを取って睨み付けた。

 俺の怖いと定評のある猛禽類のような鋭い眼光に、ボーイは腰が砕けるようにへなへなな腰で道を空けた。

「すっすいませんでした。どうぞお通り下さい」

「それでいいんだ。素直に通せ馬鹿が、今度私の行く手を塞いだらその首は無いと思っておけ」

 俺は相手が一度砕けると嵩に掛かって追い打ちを掛けておく。

 これでまさか俺がただの通りすがりだとは思うまい。上出来に満足した俺は急ぎエレベーターに向かった。

 抜け目なく確認しておいた男達が乗り込んだエレベーターを見ると、光点はぐんぐん上がり最上階で止まった。

「最上階、最上級スィートルームかよ。とことんお嬢様だな」

 俺の勘に間違いはない。

 男達は桜に用があり、桜がそこにいる。

 直ぐ様エレベーターに乗り込むと、急げとばかりに最上階のボタンを押した。

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