ぼくが姿を失うまで
むかし、ぼくは寒くて、うす暗いところに住んでいた。
だけどある日、おじさんが家をくれた。
だからここにいた。
きん色の髪と、灰色の目。
それが「とくべつ」だと言われるまで、そうだとは思わなかった。
みんながそれをきれいだと言うけれど、かがみを見るたびに、
これはぼくのものじゃない気がした。
ぼくはかみ様、と呼ばれている。
でも、かみ様って、こんなに”ひま”なんだろうか。
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◆
毎日、同じ部屋。
同じ祈り。
同じ大人たちの顔。
だからぼくは、窓に向かって話す。
「今日はパンが少し焦げてた」
「ねえ、信者さんって、どこに行くんだろう」
誰に届くとも思っていない。
声が空気に溶けるのを、ただ確かめているだけだった。
ある日、返事があった。
(――それ、焦げすぎだと思う。)
びっくりして振り返ると床にぼくの影があった。
でも、いつもより、濃い。
「……きみ、だれ?」
影は黙っていた。
でもその沈黙が、なぜか怖くなかった。
それから、影は毎日そこにいた。
話を聞いてくれて、時々笑った気がした。
友だちができた、と思った。
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◆
信者が減り始めたころ、
おじさんは、ぼくを見なくなった。
「この神はもう金を生まない。」
その言葉だけは、よく聞こえた。
捨てられるんだ、と思った。
でも、泣き方がわからなかった。
その夜、影が言った。
(――少し、借りるよ。)
次の日、奇跡が起きた。
ぼくと同じ顔の“ぼく”が、人を癒し、光を呼び、
人々は泣いて、ひざまずいた。
「すごいね」
そう言ったら、影は、少し困ったように黙った。
それからは、交互だった。
ぼくが信者さんの話を聞く日もあれば、影が奇跡を起こす日もあった。
どちらでもよかった。
二人でいられれば。
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◆
ある日、知らない男が叫びながら近づいてきた。
「返せ」
何を、とは聞けなかった。
痛みは思ったより冷たかった。
血が広がるのを天井から見ているみたいだった。
影の顔が、歪んだ。
「だいじょうぶ」
そう言おうとしたけど、声は出なかった。
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◆
気づいたら真っ暗だった。
影も、声も、なにもなかった。
でも、どこかで思った。
――さびしくない。
それが救いなのか、絶望なのか、わからない。
それでも覚えていること
もし、どこかで。
誰かが、別の姿で、別の声で、
ぼくの話し方を真似ていたら。
それは、きっと、影だ。
ぼくの影。
ぼくが、ひとりじゃなかった証。
【読み切り】邪教の神として利用されていた少年と影 ミヤザキ @miyazaki_01
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