第四話 年上のお姉さん
――ゴーン。――ゴーン。
街の中央にそびえる巨大な時計塔が、
重い鐘の音を響かせていた。
「やっと着きましたね、ギルデンアクト」
――商業都市ギルデンアクト。
かつて王国との間に不可侵条約を結んで
おり、王国軍の立ち入りが制限されている。
一時的に王国軍の追っ手から逃れるのには
うってつけの都市だ。
「――ん? アルディスさん、
白髪ありますよ。抜いてもいいですか?」
ふと俺の頭を覗き込んだステリアが言う。
「……ああ、構わん」
――プツッ。
「ふふっ。
アルディスさん、お爺さんみたい」
ステリアが何気ない様子で、
楽しげに笑う。
「……俺はまだ十七だ」
「――――え?」
時が止まったかのように、
ステリアが固まった。
「……ええっ!?
じゅ、十七歳なんですか!?」
まだイジり足りないのか……
「わ、私、二つ上の十九歳ですよ……。
今まで、絶対にお兄さんだと思ってました……」
「……つまらない冗談はやめろ」
心底疑わしく思いながら、
ステリアに視線を向ける。
その幼さない顔立ちで十九歳とは
到底信じられない。
「本当ですっ!!」
失礼しちゃうわ、と言わんばかりに
頬を膨らませ、ステリアは声を上げる。
「……そっか。
私の方がお姉さんだったんだ」
ステリアは、どこか自分を恥じるように
伏し目がちになった。
「アルディスさん、
ううん、アルディスくん!」
「突然なんだ」
「これからは
アルディスくんね。決定です!」
「……好きに呼べばいいだろ」
ステリアはさらに畳みかけるように言う。
「それと、私のことは……。
ステリアさん、だと偉そうかな……」
恐らく、自分を慕ってもらえるような、
親しみやすい呼び名を考えているのだろう。
「ステイ!」
自信満々な様子で言う。
「…………犬のしつけか?」
「ちがいます!!」
即座に否定し、今度は自分を指差す。
「私!」
「……が、犬なのか?」
「もー!!」
頬を膨らませて怒る彼女を見て、
思わず口角がわずかに緩んだ。
「冗談だ。――行くぞ、ステイ」
「――はい!」
ステリアは一瞬だけ唇を尖らせたが、すぐに弾むような足取りで、俺の隣に並んだ。
――日が沈み、
あたりが暗くなり始めた頃。
「そろそろ宿を探すか」
「……そうですね、私もうヘトヘトです」
ステリアが力ない様子で笑う。
「とりあえず、あそこに決めるぞ」
目に入った道沿いの宿へと入いる。
「部屋を二つ頼む」
宿のカウンターで、短く言う。
「すまねぇな。
今は一部屋しか余ってねぇんだ」
宿主が申し訳なさそうに言う。
ステリアの疲労が限界に近い、
優先すべきは屋根のある場所での休息だ。
「……仕方ない。それで頼む」
迷いなく返投する。
「えぇっ!?」
隣でステリアが何か言いたげだが、
構わず鍵を受け取った。
――部屋の隅。
ぽつんと置かれた一台のベッド。
「あれ……? ベッド、一つしかない?」
ステリアの視線が泳ぎ、
頬がわずかに赤らむ。
「……みたいだな」
気まずい沈黙が流れた。
「俺は床で寝る。ステイはベッドを使え」
「えっ!? だ、ダメですそんなの!」
ステリアが慌てた様子で言う。
「アルディスくんが
ベッドで寝てください!」
「……だが」
「いいんです! 私の方が
お姉さんなんですから、気しないっ!」
彼女はエッヘンと胸を張る。
年上を気取ってるのだろう。
そして恐らく、
先ほどの失態を取り繕いたいのだろう。
少しくらい付き合ってやるか……。
「わかった。それなら……」
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アルディスくんがベッドの端に座る。
「――え?」
思わず、間抜けな声が漏れる。
狭い室内、
隣に座る彼の体温が伝わってくる。
「た、確かに……、お姉さんだから、
気にしないって言いましたけど……。
そういうことじゃなくて……」
「…………本当に、
一緒に寝るんですか……?」
上目遣いに、震える声で問いかける。
「……? 気にしないんだろ」
「うっ……」
お姉さんの余裕など、
とうに霧散していた。
「――忘れないうちに、やっておくか」
アルディスくんがふと、
思い出したように呟く。
「や、やるって何を!?」
思わず声が裏返る。
アルディスくんは、私の動揺など
気にせず、低く、重みのある声で言う。
「……? 決まっているだろう。
定期的に行う必要があるんだ」
「そ、それは……。
そうかもしれないですけど。
でも、心の準備が……」
「そんなもの必要ないだろ。
……すぐに終わる」
嘘。本当に――!?
アルディスくんがこちらに身を乗り出して、静かに手を伸した。
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