第五話 王都へ
「うぅ……。わかりました、
もう好きにしてください……っ!」
たまらず、ぎゅっと目をつぶった。
直後、カチャリ……と鳴る。
逃げ場のない密室内、
漂うのは鉄と油の混じった匂い。
――――ん?
恐る恐る目を開けると、そこには
油布を手に、剣を磨くアルディスくん。
「…………、なにしてるんですか?」
「見ればわかるだろ。
メンテナンスだ。夜露で錆びる」
「…………」
――顔が爆発したように熱くなった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
翌日の朝、都市の正門前。
隣のステリアは、なぜか寝不足の様子だ。
「……早朝に出発することは、
前日に伝えたはずだ」
「それはわかってましたよ!」
ステリアが反論する。
「別にそれが原因じゃないです……」
最後にステリアが何か呟くが、
上手く聞き取れない。
「……追っ手はいつやって来るか
わからないんだ、先を急ぐッ……」
「――へぇ、結構早く来たつもりだったけど、用心深いというか、慎重というか……」
直後、俺の言葉を遮ぎるように話す
男の声が聞こえる。
声が聞こえた方を見ると、
門の内側にその男は居た。
男は王国軍の騎士団の鎧を
身に纏っている。
「王国軍は立ち入りが
制限されているはずだ」
そう問うと男は答える。
「その通りだ。でも、
国家転覆を企てているテロリストが都市に 潜んでいると言ったら中へ入れてくれたよ」
男が名乗る。
「僕は王国軍の騎士団所属、
エリオス・ジークフロイト」
男は一礼し、ニヤリと笑う。
「そこの、
欠陥王女様を連れ戻しに来たんだ」
「国王陛下からの命令でね。「もう一度だけ、チャンスをやる」だそうだ」
その言葉を聞いた瞬間、ステリアは
自分の体を抱きしめて激しく震えだした。
「悪いが、今こいつを連れて行かせる
わけにはいかない。俺にとっても、
この女はまだ必要なんでな」
「あ?」
エリオスの顔から笑みが消え、
殺気が放たれる。
「……そうかい。なら仕方ないね」
エリオスは腰の剣に手をかけ、
わざとらしくため息をつく。
「僕はちゃんと、言われた通りに
チャンスを与えたからね。――死んでも
文句は言わないでくれよ?」
こちらも腰の剣に手をかける。
「お互い……。な」
そう告げると同時に、刃を鞘から抜く。
「おいおい、
騎士様気取りかな?」
それを見たエリオスは、腹を抱えて笑う。
――よく喋る奴だな。
気にせず、
向けられた侮蔑をすべて受け流す。
「まぁいいさ。その度胸に免じて、
特別にこの僕が相手をしてあげよう」
エリオスはニヤリと笑うと、
腰の剣を引き抜いた。
「後悔しても遅いよ。
……さぁ、遊ぼうか」
――ッダ!
凄まじい魔力を纏ったエリオスが
地を蹴り、こちらへ接近する。
――ガキンッ!
こちらの剣と、エリオスの剣が激突する。
――ギィン……、ギギギ……ッ!
鍔迫り合いになり、火花が散る。
互いの力が拮抗する。
「へぇ、やるじゃないか」
「でも、おかしいなぁ。魔力のない
「それなのに、この馬鹿力。
どういうからくりだい?」
エリオスの力がさらに増す。
「……アルディスくん!」
ステリアが悲痛な声を上げる。
「ほら、王女様が心配してるよ?
大丈夫かい?」
エリオスは嘲笑うように、さらに
剣に力を込める。がしかし問題はない。
「――ああ。問題ない」
――ッカァン。
そう短く答えて、
エリオスの剣を跳ね除ける。
「いやぁ、驚いた。
まさか、
エリオスは数歩後退しながらも、
なお余裕な表情を崩さない。
「ああ、俺も驚いたよ」
剣を構え直して言い放つ。
「そうか、僕の凄さがわかっ……」
「――まさか、この程度とはな」
「……あ?」
エリオスの顔から笑みが消える。
「
少しばかり剣が使えるからって、
調子に乗るなよ!」
エリオスは屈辱を感じたのか
顔を真っ赤に染める。
短絡的な奴だ、こんな挑発に乗るとは。
対照的に、それを見ていたステリアは、
胸を撫で下ろして安心した様子だ。
「いいだろう、
次は本気で相手をしてやる」
エリオスがそう言った瞬間、
魔力が膨れ上がり、空気が震える。
「調子に乗ったことを、
あの世で後悔させてあげるよ!」
次の瞬間、エリオスの姿が消えた。
目で捉えることが
できないほどの超高速の移動。
「『格の違い』ってやつを教えてやる!!」
カン、カカン、キィンッ――!
エリオスが放つ全方位からの猛攻。
だが、俺はその場から一歩も動かず、
そのすべてを剣で弾く。
火花が散り、
金属音が重なり合って轟音が鳴る。
そして背後からエリオスが、
心臓一点に狙いを定めた、
単調な渾身の突きを放つ。
「死ねぇぇぇ!!」
――だがその瞬間。振り返ることさえせず、剣を使って背後の攻撃を防ぐ。
そのまま攻撃を弾くと、
エリオスが体勢を崩す。
「――
――【アル・フィネシス】
振り返って、エリオスの
がら空きの胴体へ、カウンターを極める。
カチン――……
再び正面を向いて刃を鞘に納める。
ドォォォォォン!!
その瞬間、背後から衝撃音が鳴ると同時に
白い光が溢れ出して、その輝きが
周囲を震わせ、白く塗りつぶしていく。
「たしかに。『格の違い』は教えてもらった」
地に伏すエリオスを見下ろす。
「ば、馬鹿な……。この僕が、
なぜだ、どうしてッ!」
「さあな。地道な鍛錬と、
素振りが足りなかったんじゃないか?」
「ッなぜだ!
なぜそれほどの力がある! 何の為に!」
「…………故郷を滅ぼしたあの男を、
この手で葬る為だ」
絶望し叫ぶエリオスへ、そう言い放つと
それ以上口を開くことは無かった。
「終わったんですか……?」
ステリアが恐る恐る声をかける。
「……ああ、終わりだ。
急所は外した、死にはしないだろう」
必要のない殺しはしない。
殺すのは、この世でただ一人と決めている。
「次の追っ手が来る前に先を急ぐぞ」
そう言って、二人で朝日に背を向け
王都へと向かうのだった。
――【アルディスフィーネ】
【アルディスフィーネ】―魔術至上主義の王国で、魔力無しの俺が欠陥王女と共に腐った国家に幕を引くまで― カクヨムコンテスト11【短編】 遠藤 肇 @Hajime_Endo
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