第三話 ステリア

 「正気か貴様? 周りをよく見ろ。

欠陥品デフがこの人数を相手に、

なにができる」


 勝ち誇ったように、

執行官が笑みを浮かべる。


 「そこの欠陥王女はな、都市一つを

滅ぼしかねない、強大な魔力を制御できず、それ故に魔術も使えない欠陥品デフも同然の

化け物なんだよ」


 執行官はそう吐き捨てる。


 「……この女が化け物だと? 笑わせるな」


 たった一人の少女を化け物と言い張る、

その心底くだらないその発言に、

思わず嘲笑する。


 「……なに?」


 執行官が顔を歪める。


 「……よほど死にたいらしいな。この男を殺せ!」


 すると衛兵たちが一斉に突撃し、

槍を突き出す。


 突き出された槍が、

俺の体を貫こうと四方から迫る。


 単調な攻撃だ。

防御も、避ける必要さえない攻撃。


 突き出された槍の先が体に触れようとする次の瞬間、気合いを込める。


 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……


 ――ッ、パキン!


 破壊音とともに、槍の先が飴細工のように

粉砕され、突撃してきた衛兵たちも、

吹き飛んで後方の壁へと叩きつけられる。


 衛兵に放ったのは気迫。

大抵の相手はこれで制圧できる。


 「……うそ」


 騒然としたその場で、

彼女は小さく呟く。


 砂塵が舞う中、平然とそこに立つ俺を見て

執行官は信じられない様子。


 「ば、化け物め……」


 執行官が震える声で惨めに呟く。


 「……それで。お前は来ないのか?」


 尻餅をついたまま

動けない様子の執行官を見下ろす。


 恐怖したのか、

言葉を返すことすらなかった。


 無責任な奴だ。王命を盾に

衛兵たちには突撃させるが、

自分は何もしない。


 ――腰抜けめ。


 「……立てるか」


 一言、彼女に問う。


 「え……、あ……」


 思考が追いつかない様子の彼女の

細い手を掴み上げ、騒然とするその場を

立ち去った。


 薄暗く静かな路地裏に

二人で身を潜める。


 「……助けていただき、

ありがとうございます」


 彼女は礼を口にした。


 「礼はいい。それより説明してもらおうか。……どういう状況だ?」


 俺の声が、狭い路地裏で反響する。


 問われた彼女は、意を決したように

真っ直ぐこちらを見て、名を名乗る。


 「私の名はステリア・セレスタイン。

――この、セレスタイン王国の王女です」


 続けて問いを重ねる。


 「執行官は王命だと言っていたな。お前が

王女だと言うのなら、国王は実の父親のはずだ」


 「いくら強大な魔力の制御が不能とはいえ、実の娘に執行官殺し屋を送るのか?」


 「そんなこと絶対にないです!

……お父様なら私に絶対そんなことしません」


 なにか、意味ありげな言い方だ。


 「……なら、どういうことだ」


 それに対し、

ステリアは衝撃の事実を口にした。


 「……現在の国王は、私の叔父なんです。

お父様は、もうこの世にはいません」


 そしてステリアは過去を語り出す。


 「三年前、お父様が急逝し、

正統な継承権を持つ私が、王座を継ぐはずでした」


 ――三年前。それは、俺がすべてを失い、

故郷が滅ぼされた時期と重なっていた。


 偶然か、それとも……。


 「でも、当時の私は幼く、王としての重責に耐えれる器ではありませんでした」


 「そこで叔父は摂政として

代行役を買って出ました。あくまでも

私が成長するまでの、一時的な支えとして」


 「ですが、いつしか叔父は「若すぎる王では国が揺らぐ」という大義名分を掲げて、私から王の座を奪い取ってしまったんです」


 震える彼女の声が、静かな路地裏に響く。


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 「それで……。お前はどうしたいんだ?」


 「今この国では、魔力を持たない人たちは

欠陥品デフと呼ばれ、差別されています」

 

 ステリアは、苦い表情になり語り出す。


 「昔は、こんな国ではありませんでした。

叔父が王座に就き、実権を握ってから

すべてがおかしくなってしまったんです」


 たしかに三年前の、故郷であるあの村では

魔力の有無で人を差別などしなかった。


 ……だが、たったの三年で国全体がこうも

変わるものなのだろうか。


 国の変わりようも、

その叔父の目的に関しても謎が多すぎる。


 「だから……。私は叔父から、

この国を取り戻したいです」


 ステリアが、真っ直ぐに俺を見る。


 「……そのために、

貴方に力を貸してほしいんです」



 その目には、国を背負おうとする

王女としての強い決意が宿っているように

思える。


 「それで貴方の命が危なくなった時は、

私に騙されて利用されていた事に

してください、口裏を合わせます」


 「勝手なのはわかっています。

貴方が私に協力する義理なんて無いのも

わかっています」


 「それでも……、貴方の強さを見て私は、

貴方となら国を取り戻せるかもしれないと、

そう思えたんです」


 ……自分も散々差別され、

蔑まれてきただろう。


 こんな王国は捨てて、国外に逃亡でもすればいい。それなのにまだ、この国の為に頭を下げるのか。


 俺の故郷を奪ったあの男への復讐。

目の前で国を取り戻そうとする王女。


 ステリアと行動を共にすれば、

何か得られる情報もあるかもしれない。


 それに互いの目的を照らし合わせれば、

この利害は一致しているだろう。


 「……わかった。力を貸そう」


 そう、答えた瞬間、

凍てつくような緊張が、溶けていく。


 「……っ! ありがとうございます!」


 ステリアは安心した様子で、礼を言う。


 「……名乗るのが遅れたな。

俺はアルディスだ」


 そう言って、自分の名を名乗った。

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