第二話 欠陥品(デフ)

 昨夜の戦場から離れ、

宿場町の門をくぐろうとしていた。


 治安維持の名の下に、

この国では至る所で検問が敷かれている。


 すると門を固める衛兵が、

俺の腰へと視線を向ける。


 そこに魔術師の証エンブレムが無いのを

確認したようで、途端にゴミを見るような

蔑んだ目を向けてくる。


 「忌々しい欠陥品デフめ……。

さっさと通れ、目障りだ」


 苛立ちを隠そうともしない様子で、

ひどく不快そうに吐き捨てる。


 「…………」


 何も応えない。ただ沈黙を貫き、

その悪意の中を歩み去った。


 この王国では、ヴァルゼイアという名の

神が信仰されている。


 それは国王の、魔力とは、

神々より賜りし恩寵であるという

思想によるものだ。


 魔力が無いということは

神に見放された、欠陥品も同然らしい。


 それ故に魔力を持たぬ者は欠陥品デフと呼ばれ、家畜以下の扱いを受けるようだ。


 ……俺には神を信仰しているというより、

国王を信仰しているように思えるがな。


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 安宿の一室を、

油の匂いとわずかな隙間風が満たす。


 固いベッドに座り、鞘から剣を抜く。


 鏡面のような漆黒の刃が、

ランプの光を吸い込み、鈍く光る。


 この剣には、名だたる名剣にあるような

華やかな装飾は一切ない。


 ただ、

底知れぬ死を形にしたような不吉さ。


 そして、昨夜の戦いを思い出す。


 ……ハイルといったか。第一級魔術師を

名乗る割には、何も知らない男だったな。


 なぜ王国は、辺境に位置する故郷の

小さな村に、わざわざ軍隊まで使って

大規模侵攻を行ったのか。


 そして、王国の戦力は。


 情報収集を兼ねた

王国への宣戦布告だったが、昨夜落とした

要塞には、有力な情報は一切なかった。


 布に油を染み込ませ、刃を拭っていく。


 目指すのは、王都。

そこには、故郷を滅ぼしたあの男がいる。


 あの日、燃え盛る村で見た光景は

今も目に焼き付いている。


 略奪と殺戮。その中で、

冷酷に剣を振るっていた奴らを指揮するあの男。奴らの装備には、王国の紋章が刻まれていた。


 その紋章が刻まれた装備を身に着ける

ということは、王国軍に所属している証。


 つまり、戦うべき相手は、

一個人ではなく、王国そのものなのだ。


 じっと、手にした剣を見つめる。


 「……待っていろ」



 カチンッ――……


 刃を鞘に納める際、

鋭い金属音が部屋に鳴り響く。


 その音は、これから王都で繰り広げられる惨劇の幕開けを告げる合図のようにも聞こえた。


 安宿を出て、

王都へと足を踏み出した直後だった。


 複数の足音と罵声が前から聞こえてくる。


 「いたぞ! その欠陥王女を逃がすな! 

王家の面汚しめ!」


 宿場町のメイン通りが、

一瞬にして騒然とした様子になる。


 ――王家だと?


 逃げる小女――。王家であるようだが、

欠陥王女と蔑まれ、追われているようだ。


 乱れた長い白髪と、薄いピンク色の瞳。


 そんな彼女が、道の端にいる俺に

視線を向ける。そして目が合ってしまう。


 そしていきなり、縋すがるように

俺の外套を掴んでくる。


 「……お願いします、

追われてるんです。助けてくたさい」


 彼女は涙ながらに訴える。


 そして追いついた執行官が言う。


 「王命である。その欠陥王女を、

今この場で処刑する!  邪魔立てする者は

同罪と見なす!」


 執行官の宣告に応じるように、

町の衛兵たちも一斉に槍を構え、

俺たちは包囲される。


 「欠陥品デフ同士で仲良くあの世行きだな」


 住人たちは遠巻きに、俺たちを嘲笑う。


 「欠陥品デフ同士って……」


 彼女の視線が、俺の腰の

魔術師の証エンブレムの不在を確認する。


 「ッごめんなさい! 

私、気が付かなくて。……逃げてください、貴方まで殺されちゃう……!」


 どうしたものか……


 足元の少女を一瞥し、

それから周囲を見渡した。


 目の前で少女が処刑されそうだというのに、それを見世物のように考えている。

この国の国民性に反吐が出る。


 「……話は後で聞く。

俺の後ろに隠れていろ」


 「え……?」


 そう言って俺は、

彼女の前に立ちふさがった。

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