第2話 アバターを決めましょう
“アバターを決めましょう。役所に向かってください”
街並みを眺めていた私の視界に、突然ウィンドウが浮かび上がった。
「ココノ、ここでアバター決めておいで」
ほぼ同時に、タマキちゃんが迷いなく役所の前まで案内してくれる。
……さすが経験者。頼りになる。
「おに……じゃなくて、タマキちゃん。原田先輩たちは?」
私の初期設定に付き合わせるのは申し訳なくて、そう聞いた。
「あの二人は先にクエスト行ってるよ。大丈夫。ゆっくり決めな」
柔らかく笑うその顔に、胸が少しあたたかくなる。
姉がいたら、きっとこんな感じなんだろう。
役所の中には受付カウンターがずらりと並んでいた。
そこで、ひとつ気づく。
「……みんな、仮面つけてる」
「NPCはね。見分けがつくようにしてあるの」
「NPC?」
「ノンプレイヤーキャラクター。AI搭載って佐伯さん言ってたわ」
……って事は、あの丘に居た彼もNPCだったの?
あー、だから急にいなくなったのか。足音も無かったし、不自然だなって思ってたけど納得。
「そんで、ここがアバターを決める場所。証明写真みたいなものよ。いってらっしゃい!」
まだちょっと慣れない女の子のタマキちゃんと別れて、一人小さな個室に入る。そこはタマキちゃんが言う通り、証明写真機みたいで椅子と液晶があった。無機質な空間だ。
音声に従って答えていく。
“プレイヤーネームを教えてください”
ココノだとそのまんまだから……
「ココ」
性別――女の子
年齢――十六歳
そして。
なりたい顔は?
制限時間一分。理想を思い浮かべてください
「……一分!?」
焦る頭に、真っ先に浮かんだのは――
レイ君。
さらさらの髪。キラキラ眩しい王子様の笑顔。
それから、琥珀色の澄んだ瞳。
――ブー。
『それは男性です。反映できません』
「え、ちょ……」
『タイムオーバー』
「……嘘でしょ」
心の中で叫んだ瞬間、シャッター音が鳴った。
――カシャ。
“アバターが決まりました”
映し出されたのは、ほとんど現実の私と同じ姿。
瞳の色が琥珀がかっているだけ。
……絶世の美人、無理でした。
個室を出た瞬間、タマキちゃんが吹き出した。
「こういうゲーム初めてだもんなぁ」
ぽんぽんと頭を撫でて慰めてくれたのだった。
「今日からよろしくね、
タマキちゃんは私と目線を合わせて言った。昔から変わってない、こういうところ好きだな。
「次、役職決めるよ。さっきの受付カウンター行こ」
タマキちゃんに手を引かれて、私はついて行く。
……そういえば、アバターを決めてからタマキちゃんの名前やHPのゲージが見える様になったな。
って、タマキちゃんのHP高すぎない?私の百倍はあるんだけど。
「……役職決めですか?」
……あれ?この声って。聞き覚えのある、低くて落ち着いた声。
顔を上げると白い仮面。黒いローブ。
リヒト。
丘では見えなかった名前が、はっきりと表示されている。
NPCのはずなのに。
なのに、心臓が妙に跳ねた。
「私のじゃなくて、この子なんだけどね」
彼は私をじっとみてから、口を開いた。
「……ココ、さんのですか」
さっきの丘の上での出来事、覚えてないのかな?NPCだからそういうもの、か。
でも、助けて貰ったのは事実だ。あの時言えなかった言葉を彼に伝える。
「さっきは……助けてくれて、ありがとうございました」
「……いえ」
淡々とした返事。そのやり取りを見て、タマキちゃんがくすっと笑う。
「ココノ、NPCにお礼言わなくていいのよ?……てか、助けてもらった?」
丘での出来事を説明すると、タマキちゃんは私のステータスを呼び出した。
「……ちょっと、これ」
次の瞬間。
「は?」
低い、完全に男の子の声だった。
「あ、ごめん……コホン。ココちゃん、MPどうしたの?∞って」
「わ、私もわからなくて……なんかアイテムが……」
空気が、一瞬止まる。
「アバター決める前にバトルが始まる事は、まずないんだけどね。佐伯さんに報告しておこうか」
やっぱり、普通じゃないよね?それに、こんなに簡単に激レアアイテムが入るはずないもん……。
「じゃあ役職は――」
「ココさんはプリーストがいいと思います」
リヒトさんが、はっきりと言った。タマキちゃんが眉をひそめる。
「でも、パーティ的には、」
「プリーストがいいと思います」
何故かリヒトさんは、プリーストを激推しする。NPCってこんなにも自分の意見言ってくるんだっけ?
いや、私の適性を見てそう判断してるだけ、かな?
「……」
「……」
「……リヒト、聞いてる?」
「……はい」
「ココちゃんの役職、ウィザードでお願いね」
「……わかりました」
私はウィザードもプリーストも、名前だけではよくわかっていなかったから、ゲームに詳しいタマキちゃんならこの選択も大丈夫だろうと思った。
役所を出て、タマキちゃんが小さく呟く。
「今日のリヒト、ちょっとおかしかったわね。あとでバグ報告出しておきましょう」
……バグか。確かに丘に居た時とは全く違ってみえた。それもきっとバグなのかもしれない。
このゲームは世間ではまだ先行予約で、実際に発売されるのはまだ先の事。それまでにこうやって、テストプレーヤーはバグを見つけて行くのだと、湖來乃は自分のMPゲージを見た。
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