第3話 結晶の造形魔法
魔法騎士とは、空を飛ぶ鷲の様に勇敢であり、獅子の如き正義感を持ち、自らの犠牲を厭わぬ心の持ち主である。
空より飛来する敵、地の底より這い出る闇によって穢れた魔女から国を守る者。
誇り高き存在である彼女達は、憧れの対象であり誰もが一度は恋をする。
「止まってくれ」
中央広場に聳えるツリーが視界に入る。レンガ造りの洒落た建物の上を飛行するブラックダイヤモンドに、ネフィリアードは指示をする。ブラックダイヤモンドは、安全圏の建物の屋上へと降りた。
追いついた2人も、箒を制止させると屋上に降り立つ。
「ほら、僕の言った通り踊っているだろう?」
「恐ろしいな」
ネフィリアードは思わず顔をしかめる。
5階建ての建物に匹敵するツリーは、今は有象無象の怪物の集合体のようだ。
赤や金、銀のボール達は、ガツン、ガツンと音を立ててぶつかり合っている。巻き込まれたのかジンジャークッキーや木製の動物のオーナメントは一部が破損し、左右に大きく揺れるベルは騒音を奏でている。ランタン型の灯りは激しく点滅し、それにつられて輝く金や銀のモールが蛇のようにうねっている。
唯一の救いは、ツリーが不動である事だ。
左右に大きく揺れでもすれば、ボールやベルが勢い余って放り投げられ、建物に衝突し、二次、三次と被害が拡大していただろう。
「私が行く、2人は安全が確保され次第来てくれ」
「はーい」
「気を付けてね」
再び飛び立ったブラックダイヤモンドは、慎重にツリーへと近付く。その上に乗るネフィリアードは、腰に携えた杖に手を掛ける。
「ネ、ネフィリアード様ぁ……!」
ツリーの頂点を飾る宝石に似た結晶体の星に、ハニーブロンドの小柄な魔女がしがみついている。ネフィリアードを見つけると、彼女は勇気を振り絞って助けを求めてきた。
「大丈夫だ! 騒ぎは私が収める!」
両者の声が届く範囲でも、ツリーの飾り達は彼を攻撃する様子はない。キラキラとランプの光を浴びて輝くボール達の姿は、ただただ壊れるまで踊っている。
其の中で、ネフィリアードは鞘から取り出した。
氷河もしくは水晶に似た青白い光を内包する結晶の杖。
その先端を巨大なツリーへと向ける。
「結晶達よ。前へ」
呼びかけに応えるように、杖の先端は青い輝きを放つ。
瞬間。
巨大なツリーの根元から、虹の淡い光を放つ結晶の柱が無数に出現する。
結晶の根元から成長が加速し、目にも止まらぬ速さでツリーと飾りを覆い尽くす。
その速さに飾り達は抵抗する暇すらなく、頂点の星と魔女を残して全て結晶の中へと内包された。
呆気なく思える程に、一瞬の出来事だった。
5階建ての建物と同等の巨大なツリーに対して結晶を大量に出現させる魔力量。そしていともたやすく制圧し、周囲に被害を出さない魔法の制御と操作能力。どれも一級品であり、第一部隊隊長であるのは伊達ではない。
「コルエ。彼女を」
「はーい」
安全を確認すると、コルエは建築の魔女の元へと近付き、救助をした。
結晶に包まれたツリーの前に、4人は無事地面へと降り立つ。その様子を見守っていた建築の魔女達は3人へと駆け寄り、感謝と謝罪を述べる。そして、何があったのか説明を始める。
「今年のツリーの設計も、今回の魔法も問題なかったはずなんです」
丸メガネをかけた魔女は、三人へとツリーの設計図と担当者の名前、どの様な魔法を使うか書かれた資料が提出する。
軽く目を通してみると、今回の巨大ツリーは計10人の魔女が携わっている。ツリーは安全性を考慮して四季の魔女4人による魔法で構成さている。残り6人はそれぞれ建築の魔女はツリーの土台や飾りを担当し、制作をした。飾りのデザインについては外部の服飾の魔女が関わっているが、デザイン画に魔方陣は仕込まれて居らず、おかしな点は見当たらない。
また、今回は飾りのみなので、仕掛けやライトアップ等の担当者は飾りつけを手伝うのみだった。
「は、犯人がいると思います!」
「そうです! そうとしか考えられません!」
ハニーブロンドの髪の魔女はそう言い、ピンク髪の魔女は其れに賛同する。
ツリーだけが暴走しなかったのは、4人の魔法が編地のように複雑に絡み合っていたからだ。それが幸いし、暴走を謀った犯人に主導権を握らせなかった。
見栄を張って1人で作り上げていたら、今頃は大惨事になっていただろう。
そうだとすれば悪戯と片付けるには、あまりに規模が大きい。
大勢が集まる本番では無かったのが、不幸中の幸いである。
「君達の言葉を信じたいが、この状況では10人全員に容疑が掛けられてしまう。君達の安全確保とより詳しく話を聞くためにも、担当の騎士の指示に従ってもらえるかな?」
魔法騎士達を欺くために被害を偽造した加害者の事例があり、ネフィリアードは慎重な姿勢を取っている。
安全対策については申し分ないが、資料だけでは判断できない。
聖誕祭で一番の見世物であり、女王も観覧に訪れる巨大ツリーが狙われたとすれば、全てを疑いにかかる位が丁度良い位なのだ。
「は、はい! それはもちろん」
潔白を主張しても今は難しいと彼女達も分かっている様子で、ネフィリアードの言葉に素直に頷いてくれた。
「鑑識班は?」
「もう直ぐで着くわ」
空を見上げると、真っ赤な薔薇の様に鮮やかな髪の魔女を先頭に12人が箒に乗ってやって来る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます