第2話 事件現場へ

 年齢は2人と同じ位だろう。ふわりとした内側へと跳ねるショートカットの黒髪。珊瑚色の薄い唇、絹のようにきめ細やかな白い肌、針葉樹の森に住む妖精の様に神秘的な美しい顔には、金色の猫の瞳が浮かんでいる。全体的に身体の線は細くしなやかであり、2人と同じく軍服を着ているが、マントには黒の羽があしらわれている。魔女の帽子は小さな白薔薇添え、ライトストーンを少々散りばめる程度と、ミランジュに比べると簡素な仕上がりだ。


「コルエ。先に行ったのなら、君が対処すればよかっただろう」


 ネフィリアードは階段を上りながら言う。


「先に行ったんじゃなくて、偶然近くのカフェにいただけだよ。確認したところ、僕の得意とする魔法では、あれの対処は不向きだった。それでネフィを呼びに来たんだ」


 わざとらしく肩を竦めながら〈絶零の魔女〉コルエは言った。


「どの様な状況だったか、詳しく説明してくれ」

「ボール同士が音を立てて激しくぶつかり合い、ベルが騒音を奏でていた。金や銀のモールが外側に伸びて、蛇のようにうねっていたよ。見る分には面白かったかな」


 その動きを真似るかのように、コルエは細く長い指をひらりひらりと動かして見せる。


「でもツリーに比例して、飾り達も大きい。踊りに巻き込まれかねない状況で、誰も手出しが出来ない状況だった」


 箒で飛べるとしても、モールに絡め取られてしまえば一環の終わりだ。締め付けられるだけでなく、地面へ投げ落される、ぶつかり合うボール達の元へ縛り付けられる等、何が起きてもおかしくはない。助けが来るのを待つ方が妥当だ。


「いったい、誰の仕業だろうね」


 見物していた魔女達の会話から、ツリーの頂点に星を飾った瞬間に、飾り達が踊り始めた事が判明している。飾り達は、建築の魔女が魔法で作り出したものだ。箒や杖の様に職人が作ったものなら兎も角、生みの親の言うことを一切聞かなくなるのは奇妙な話である。

 第三者がいるとしか考えられない。


「……君が知った時点で、負傷者はいたか?」


 まずはツリーの鎮圧を優先すべき、と考えを切り替えたネフィリアードはコルエに訊いた。


「建築の魔女達の迅速な対応もあって、大きな怪我をした人はいなかった。いても、かすり傷程度だ。今は僕が結界を貼っているから、近づきでもしない限りは大丈夫だよ」

「飾りの具体的な大きさは?」

「そうだなぁ……小さい物なら僕達の頭位だ。一番大きなボールでは、僕達の半分くらいあったかな。他の飾りも似たような大きさだよ」


 2m近くあるネフィリアードの前では小さいと錯覚してしまうが、コルエは182センチとミランジュは184センチと長身だ。

 具体的な大きさがわかり、ネフィリアードの眉間にしわが寄る。


「確かに、巻き込まれたら危ないな」


 最大で直径90センチ前後の飾りのボール達が直撃しようものなら、打撲だけではすまない。当たり所が悪けれれば、骨折する恐れがある。


「大量の飾りを制圧するなら、ネフィの魔法が一番だ。頼めるかい?」

「あぁ、もちろんだ」


 3階の屋上へ到着すると、コルエとミランジュの相棒である箒二本が一足早く待機していた。


「それじゃ、ネフィちゃんは私と一緒に箒に」

「僕の箒に」


 相変わらずな幼馴染達に、ネフィリアードは小さくため息をつく。


「いい加減子供扱いは辞めてくれ。その距離なら、ブラックダイヤモンドに頼む」


 えー、と2人は不満そうに言うが、彼はあえて無視をした。

 ネフィリアードは魔女の国で生まれ、育った。

 しかし純血の獣人である彼は、魔力はあっても魔女のように箒を操る素養はある筈がない。授業に必須だった学生時代には、気の良い箒に何度か乗せてもらっていたが〈本当は魔女を乗せて走りたいだろうから〉と成人後は別の方法で飛ぶことにした。


「来てくれ」


 ネフィリアードは一言発すると、その瞬間に足元の影からダイヤモンドの巨大な結晶が生える。

 彼は、ありとあらゆる鉱物、宝石などの結晶体を自在に操り創造する〈造形魔法〉を会得している。


 豪雪から都市を守る透明な魔法の天幕より虹色を受け取ったダイヤモンドの結晶は、一瞬にして黒く染まる。

 そして、音もなく割れた。

 まるで孵化するかのように、その中から出てきたのは、一つ目の黒い大鷲だ。

 頭から足までの高さは、約190センチ。翼を広げると5メートルを優に超えそうだ。


 大鷲の名は〈ブラックダイヤモンド〉


 造形魔法とはただ想像するのではなく、着地点や目的をはっきりさせる程に安定をする。

 ネフィリアードは造形魔法で作り出す存在の中には、用途ごとに〈ルビー〉や〈サファイヤ〉等の代表的な宝石名を用いているのだ。


「行くぞ」


 空を飛んでの移動と理解しているブラックダイヤモンドは、身体を屈め、ネフィリ―アドに乗るように促す。


「はーい」

「わかっているとも」


 彼が背に乗った事を確認したブラックダイヤモンドは飛び立つと、一気に速度を上げ、あっという間に2人から距離を離す。


「はやーい」

「ほらほら、行くわよ」


 2人は自分の箒に乗り、彼の後を追う。

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