第2話 密命
月明かりが、雨漏りの跡が目立つ安さ重視のアパートの床を照らしている。
ジンは、またしても安物のエールを喉に流し込みながら隣の部屋に眠る彼の気配を感じていた。
「……いつまでそこにいるつもりだ?暗殺者なら相手になるが?」
ジンが言葉を投げかけると、夜の影に紛れて音もなく室内に一人の男が姿を現す。
漆黒の軽装に身を包んだ、国王陛下直属の隠密組織━━影の一員である。その男は人に対して跪き、頭を深く下げた。
「……お久しぶりでございます。《雷帝》閣下」
「よせって。俺は雷帝の地位を退いた身。……陛下は何と?」
影は、懐から一枚の封筒を取り出す。昼間のものよりも重要かつ秘密性のの高い「赤封筒」である。
「陛下は……「雷帝の地位を退いたと思っているようだが、席は残してある。いつでも戻ってくるように」と」
ジンは鼻で笑う。
「今のところは戻るつもりは一切ないと伝えてくれ。いつ戻るかも分からない俺のために十二帝の席を残しとくとはな……」
嬉しくもあり、寂しさもある複雑な表情をジンは浮かべる。
「だが、魔法については多少マシになったが、いつ暴走するか分からない。雷帝が魔法も使えず、こんなんじゃ、話にもならんだろうさ」
ジンは、右手の拳を見つめる。
無数の傷跡が刻まれたその手には、未だに消えない後遺症がある。あの日、一万の敵兵を一瞬で焼き尽くし、地形すら変えてしまった。俺の全力だったのは間違いないが、あの日から俺は魔力コントロールが上手くできず、魔法を調整する力をなくした。
「それでも陛下は信じておいでです。それに、王都で行われる『騎士選抜』にて閣下のお弟子さんの姿を見ることを楽しみにしております」
「勝手に予定に組み込むなと伝えておけ。……だが、あの師匠の頼みだからしょうがねぇか」
ジンは空になったジョッキを置き、窓の外に広がる王都の夜景を眺めた。
「明日から地獄だぞ。魔法なんていらんと思わせてやる」
影が再び闇に消えた後、ジンは一人、静かに笑う。「厄介ごと」を受け入れた師匠の顔だった。
そして、ジンはふと我に帰り、一言。
「あれ?あいつの名前、聞いてねーや」
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