第3話
「おはよー、久次米さん」
「おはよう、高沖さん! 今日は英語の小テストだねー、勉強やった?」
「あー、あたしバカだから諦めてるわー」
「も~、またそんなこと言ってー」
妹に助言をもらった翌日、私は意識的にセリに近づくことにした。
声をかけていい瞬間があればタイミングを見計らって挨拶をかわし、他愛もないやりとりをする。購買に私もセリも用があれば「一緒に」と誘ったりもしたっけ。
「アンがセリさんのこと、口説いてるー」
「がんばー。応援してるぜぇ」
うるせぇ、人の気も知らないで。
友人たちの野次を適当にあしらいつつ、私は毎日セリに話しかけた。
彼女はよく笑う。どんな何気ない会話でもニコニコ聞いてくれるし、放課後の予定も気軽に教えてくれた。何なら二人だけでカラオケにも行ったりしたが――
【注目度:94】
【好感度:+2】
【離脱率:89】
数字は相変わらず高く、減る気配はない。
どうするかな、と思考は最近、立ち往生しっぱなしだ。
いちおう切り札はある。それはズバリ、セリに私の手作り服を着用してもらう。効果は妹と母、そして私自身で実証されているのだから。
もしも妹が示した“可能性”が正しい場合、手作り服がもたらす“安心度”は期待できる。ひとまず取っ掛かりとしては「モデルになってほしい」がベターだろうか?
(けど……唐突すぎないかぁ、それ?)
はたしてセリとそこまで仲良くなれたかどうかは微妙だ。たしかに彼女はよく笑うし、気さくだが、心なしか壁を感じてならない。
それに手作り服の効果が発揮されなければどうなる? 妹が示した“可能性”が正しいとするなら、一体どんな方法が正解なんだろうか?
「ね、聞いてる?」
「んー? あー、ごめん。ぼんやりしてた。何だっけ?」
「いいよいいよ、気にしないで。それよりもどこでご飯食べよっか」
「どうすっかー」
と言いながら意識を現実に引き戻す。
今日は休日、時刻は正午を回ったところ。晴れ晴れとした空は青く、日差しもまぶしい。お腹も空腹を訴えており、小さく音を鳴らしていた。
「私としては駅前のカフェがおすすめかな。あそこ、いい感じに落ち着いていて紅茶やコーヒーが充実してるんだよ」
「でもさー、そこ、長いお喋り許してくれる系? さっき見た映画についてとことん話したいんだよねー」
セリとともに映画館がある大通りをゆったりと歩いていく。
そうだった。私はいま、映画を出たところだったんだ。先ほど観賞した映画は秋に公開された作品だが、ロングヒットしており、現在も話題沸騰中。けれどお互いまだ見ていないということで休日に映画を見ようって約束し、今に至る。
「うん! 大丈夫だと思う! それに話したいなら別な場所で話せばいいし、高沖さんにはそのお店を紹介したいの!」
おおらかな笑顔を浮かべるセリ。
朝よりも気温が暖かくなってきたため、ダッフルコートの前部分は開かれているが、いやはや、まさに目のやり場がない。
ジャンパーワンピースの下から押し上げる胸は曲線を描き、男が見たら「爆弾!? いや、巨大メロン!?」とはやし立てそうだ。
(それ抜きにしても女の私でも『可愛い』と思っちゃうんだよなー、久次米さんって)
これがラブコメ世界(推定)の補正だろうか。
そう考えたとき――視界の隅に見覚えのある数字がかすめていった。
【離脱率:100】
思わずその数字を目で追いかける。
数値の下にいる人物はスーツ姿の男性。中年で、白髪頭。目を離せば、この雑踏に埋もれてしまいそうな男性はしっかりとした足取りで歩道を進んでいく。
だがその歩みが不意に止まった。向こうの歩道に視線を向けたかと思えば、少し左右に首を動かす。
「どうしたの? あの人、知り合い?」
「いや、なんか――」
言葉を選ぼうとした、その時だ。
一台の車が歩道横を通り抜けようとする。荒い運転手なのか、スピードが速い。普通なら通り過ぎるのを待つものだが、男性は違った。
「ま――っ!」
叫ぶより先に身体が硬直する。
次の瞬間、甲高いブレーキ音が轟く。その隙間を縫うようにグシャと何かが潰れた音を私は確かに聞いた。
(続く)
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