第六巡 悪い霊
第31話 ふたまた 神谷冬季
以前住んでいた部屋の近くに、先生、と呼ばれる男性が住んでいました。なんの先生だか正確には誰も知りませんでしたけどね。そこの家で事件があって、そのお隣さんに聞いた話です。
私とそのお隣さんとは同じスーパーを利用していて、お互いご近所なのは知っていたんです。それで、年配の方だったんで重い荷物の時に手伝ったご縁で、たまに井戸端会議に巻き込まれるようになりました。私は今は、重い物持てないんですけどね。
井戸はなかったんで、正確にはゴミ捨て場会議ですかね。私はアパートのゴミ捨て場を利用していたんですけど、ご近所の別のゴミ捨て場が会議場でした。
それで、その井戸端会議で、事件前から先生の話は聞いていたんです。
先生のところには、交代で美女がやってくる。
いろいろ甲斐甲斐しく世話を焼いている。どちらも先生のお嫁さんの座を狙っている。
そんな話だったんですよ、最初は。
そのうち、その美女たちが回覧板を隣に持ってきてくれるようになった。
お隣さんが彼女たちから聞いた話では、それぞれが、そう遠くないうちに先生と結婚する予定で通っているんだと。そう、聞きだしたそうなんですね。彼女たちの方も、先生の様子を聞き出したがっていたようですが、特につきあいがないのでわからないと答えていたそうです。
まあ、なかなか、言いづらいですよね。二股かけられてるよ、とは。
それぞれが自分が結婚してその家にいずれ住むつもりでいるから、彼女たちは自分の存在を隠すつもりがないわけです。なので、井戸端会議ではいろんな情報が飛び交いました。あっちの彼女が先生と何してたとかこっちの彼女が先生と出かけてたとか。先生も大胆でしたよね。
まあ当然、バレたわけです。彼女の一人が探偵を雇って。ご近所中が知ってましたからね、誰が教えたかなんてわかりませんよ。
ある日大学から帰ってきたら、先生の家の周りにパトカーがいて。うろうろしてたお隣さんに聞いたら、女の悲鳴が何度も聞こえてきて、通報したんだと言っていました。
鍵を中から開けさせて警察が入っていくところまでは見ましたけど、後は私は帰りましたよ。続きは次の井戸端会議で聞きました。
女性の片方が刺殺されて、もう片方は二階から吹き抜けのホールに頭から落ちて転落死。先生はかすり傷一つなし。
転落した女性が犯人で、パニックになって転落したということです。
それで、お隣さんが言うには、犯人とされた女が、うちに来るんだ、と。
ピンポンってインターフォンが鳴ったのでドアを開けると、首が真横になった女が立っている。
びっくりしてドア閉めると、どんどんとドアをたたかれる。
どうして教えてくれなかったんだ、と叫びながらね。
それで、カメラ付きインターフォンに変えたんだそうです。ピンポンと鳴って誰も映っていないのに出たら同じことになったそうですが、出なければおとなしく帰るんだそうですよ。それで、お隣さんは一応解決したようなんですが。
回覧板を、先生が持ってくるようになったわけです。
そうしたら、来るたびに顔色が悪くなってやせ細っていくんだそうですよ。自業自得とはいえ、家で女二人死んだわけですからね。やせもするだろうと。
でもあるとき、そういえばうちに来るくらいなら、先生のとこには現れてないのかな、と思って、言ってみたんだそうです。
こないだ、ドア開けたら首折れた女の人が立ってて、怖いからカメラ付きインターフォンに替えたんだよ、と。
先生は、ブルブル震えて、飛んで帰っちゃったそうです。以来、回覧板は門のポストにただ突っ込まれるようになったんだそうです。
一か月くらいして、先生、警察に自首したんだそうです。
転落死した女性を、自分が落としたと。
家に幽霊が出るから、助けてくれと。
結局、すぐ帰って来ました。家に幽霊が出るから帰りたくなくて警察に泊まりたかったみたいです。
一応警察も聞き込みしなおしに来たそうですよ、お隣に。お隣さんも家に幽霊が訪ねてきた話をしたそうです。で、先生も言ってたかって聞かれて、言ってなかったけど自分がその話をしたら逃げ帰ったと伝えたそうですよ。それでまあ、ご近所のみなさんのところに同様に聞き込みがあったらしいです。私のところまでは来なかったですけどね。それで、先生が幽霊怖さに自首したんだという噂になって。
結局、更に一か月くらい経って、また警察が来てて。
後で井戸端会議で聞いたら、先生、吹き抜けで首吊って自殺しちゃったんだそうです。
その担当の刑事さんが偶然姉のマンションの隣人だったんで、ずっと後に話をする機会があったんですけど。警察の調べでは女が自分で飛び降りた痕跡がはっきりしていたんだそうです。階段には血まみれの女が倒れていた。男は警察が中に入ったときには下にいた。階段を事件後に昇り降りした痕跡はなかった。だから、男がやっていないことは確かだったそうです。
私が引っ越しするときもまだ、そこは空き家でしたね。一応、売家の看板が貼ってありましたけど。
引っ越す前は時々、首が曲がった女がお隣との間を行き来しているのをみかけましたよ。死んでから、お隣と先生に二股かけてたみたいです。刺された方は残らなかったようですね。
引っ越した後に、その道を一度車で通ったことがあるんですけど、その時には、先生の家とお隣、両方に売家の札が出ていました。
ちょうど、お隣に首の曲がった女が訪ねていて、ドアが開くところでしたよ。
語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。
『百物語が終わるまで』
https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761
の作中話は800字程度に縮小させました。よろしければ本作もお読みいただけますと幸いです。
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