第27話 声 羽生晴花

 私は、霊能者だと言われています。

 私は、霊の姿を視て、たまに声を聞くことができるだけです。

 常に見えたり聞こえたりしているわけではありません。

 何かに集中していれば、いくら周りに人がいても、声は耳に入って来ないし、 その存在を意識することもないでしょう?

 けれど、ふと集中が途切れると、周囲の方々の姿が人と認識され、その声も聞こえるようになる。

 同じように、私は、多くの霊の存在は気にしていません。

 置物と同じだったり、ただすれ違うだけの人のように。それは、相手の状況にもよります。

 何かに集中していても耳元で騒がれたら聞こえますでしょう。ですから、主張の強い霊は生きている人と同じように視えますし、聞こえます。

 アメリカに行った時のことです。

 霊能者だからと、招かれての渡米でした。

 言葉もわかりませんし、買い物にも興味はありませんでしたので、私は招待主の依頼で行動するほかは、ほとんどホテルの部屋で過ごしていました。一緒に来た叔母は一人で出かけておりましたけれどね。

 帰国の前日も、お別れのご挨拶が済んでからは、部屋でぼんやりとしていたんです。

 もうそろそろ出かけている叔母が戻って来て、夕食に出ることになるかなと思い、着替えに立とうとした時でした。

 突然、悲鳴が聞こえたのです。

 鼓膜が破けるかと思いました。とっさに座り込んでしまって、両手で耳をふさぎました。けれど、 それでも聞こえました。

 ホテルの部屋の中が悲鳴で満たされたようでした。耳が壊れる、窓が壊れる、と思いました。頭がい骨の中で響くくらいでした。

 叫びが、願いが、祈りの声が。

 何を思うこともできず、ただ叫ぶだけの悲鳴が。

 死にたくないという意思が。

 子供だけでも、と願う声が。

 助けてくれ、と祈る声が。

 言語はわかりません。ただ、その意思を伝える声が、叫びが、部屋中を占拠したのです。

 その声は、一分ほどの間、続きました。

 もしかしたら、十数秒のことだったかも知れません。

 おさまってからも、しばらくは動くことができませんでした。

 けれど、落ち着いて見れば、霊の姿があるわけでもない。

 なんだったのだろうかと、ぼんやりしているうちに叔母が戻って来て、夕食に出ました。

 食欲はまるでありませんでした。叫びを聞いたショックで、体の機能がどこか麻痺してしまったかのようでした。食べようと思っても腕が震えてしまって、水分を採ることさえできませんでした。

 部屋に戻って、すぐにベッドに入りました。頭がひどく疲れてしまって、何を考える間もなく眠りました。

 翌朝、テレビをつけると、ちょうどニュースを流していました。

 言葉はわかりませんでしたが、何のニュースかはわかりました。

 リポーターが、暗闇の中の業火を背景に、話をしていました。

 変わって、朝日の中、煙を上げる残骸が映りました。

 飛行機事故の報道でした。

 そこでは細かいことはわかりませんでしたが、帰国してから、新聞で詳細を知りました。

 旅客機が離陸直後に墜落して、乗員乗客全員、亡くなられたのです。

 私が、悲鳴を聞いた時刻でした。

 そして、現場は、私が滞在していた州でのこと。泊まっていたホテルは、空港の近くでした。でも、緊急車両などの音は聞いた覚えがありませんし、レストランも静かでした。離陸直後といっても、それなりの距離を飛んでいたのでしょうし、反対方向に飛び立っていたのでしょうね。

 落下したのは収穫直後の麦畑で、地上では建物などの被害はなかったそうです。翌朝のロビーは確かに、落ち着かない雰囲気でした。

 生命の危機に。迫り来る死を悟り叫んだ人々の声が、届いたのだと思います。

 死者の声ではありません。生霊に類する声です。

 放たれた強い想いを、私は受け取ったのです。

 あれほどの叫びを届けられても、私には何もできませんでした。誰も、彼らを救うことはできませんでした。

 いくら視えようが聞こえようが、できることはありません。霊能者であっても、ほかの皆様と同じように、せめて、亡くなられて後、安らかであることを願い、祈ることしかできません。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


『百物語が終わるまで』

https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761

の作中話は800字程度に縮小させました。よろしければ本作もお読みいただけますと幸いです。

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