第28話 死の川 相川芳生
さっきの田中さんの話と、同じ辺りの話かも知れないなあ。
もう死んじゃったけど、視える同僚から聞いた話。これだけは、本人と直接関係ない話だから、しちゃおうかな。
太平洋側の海辺の高台にあるとある町。今も工場が並び立つそこは、戦時中軍需工場だったんだって。同じとこっぽいでしょ?
そこに、同僚は、海水浴に行った。
まあ、戦時中のことは関係なく、普通に海岸線に海水浴場がいっぱいあるんだそうですよ。で、足を何かにつかまれておぼれかけて、監視員さんに助けてもらったんだそうです。
終戦間際の昭和二十年の春から夏にかけて、その町は時々、集中的に爆撃を受けたのだそうです。
町は
その街中を流れる川は、火災から逃れて川に飛び込んだのに爆撃による猛火で高温になった川で煮えてしまったり、大勢が低いところへ飛び込み周囲で火災が起きたために酸欠になってしまったりした人々で、死の川になってしまったんだそうです。
町中が死体だらけ怪我人だらけの中、川一面の死体は、上流からの流れや河口からの潮の満ち引きにかろうじて乗って、少しずつ崩され流されて行きました。
河口へ。海へと。
今は海水浴場として賑わう浜辺には、川から流れ下って来た死体が流れつき、浜を埋め尽くしたのだそうです。
飛び込んだ川の惨状に、人を踏みつけ酸素を求め熱から逃れようとし亡くなった人々の中には、今も苦しみから逃れようと、助けを求め続けている人もいるのかも知れません。
踏みつけられ、水面に浮上することができず亡くなった人々の中にも、空気を求め人の助けを求め続けている人もいるのかも知れません。
彼等はまだ、悲劇の中にいるんですね。現実の生々しい地獄を経験し、そうして、まだその中にいるんです。
ただ、助けを求めているだけ。
実際、おぼれている人を正面から助けてはいけない、とよく言われますね。必死すぎて助けてくれた人にしがみついて踏み台にして空気を求めて水面に出ようとする。助けにいった方が、おぼれてしまうから。
彼の足をつかんだ霊も、それはそれは、必死だったんだそうです。足をつかむ手は、現実の苦しみで死に瀕し、必死の助けを求める手だったんだそうです。
現場の歴史は、お宿の人に聞いたそうですよ。
語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。
『百物語が終わるまで』
https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761
の作中話は800字程度に縮小させました。よろしければ本作もお読みいただけますと幸いです。
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