第五巡 古い話
第25話 桜 神谷冬季
今住んでいるところの近くにある、お寺で見た話です。
よくあるお墓とセットのお寺なんですが、まあ、広くはありません。お寺のすぐ脇がお墓。でも、その境界に、大きな古い
一本だけですし、さすがにお墓の脇ですからね、そこでお酒飲んで花見をする人は見たことないんですけど、 その桜を観にわざわざ来てる人はいるみたいでした。
私はたまに行くスーパーへの近道に通るんですけど、その時期はそっちのスーパーの利用率があがる感じで観に行っています。綺麗な桜ですよ。
時には幽霊も観に来ています。お寺も古いので、着物の人たちですね。別に変なのじゃなくて、普通の人と同じで、近所なんで観に来たとか、そんな感じでしたね。
けど、そうじゃないのを視たことがあります。
その場所にだけ現れる、霊です。
一人で、桜の木の下に来るんです。白い着物一枚で、真下に来ると草履を脱いで、木の下に座って、前をはだけて。で、しばらくすると割腹して、突っ伏して倒れる。
普通、割腹する時は介錯がつくじゃないですか。けど、その人は一人なんで、すぐには死ねないんです。
手足で土を掻いたりしてて、最終的にあおむけになって、桜の木を見上げる。
ずっと、桜が散っているんです。
たいして風がなくても、彼が現れた頃から桜が散りはじめて。
彼の体に散りかかって。倒れた体に積もっていくんです。
彼の姿が視えない人にも、桜の花びらが異常に散るのや、変な積もり方をしているのは見ることができていました。
ご住職様に聞いた話では、そのお寺にいたお坊さんが、飢餓に苦しむ農民を煽って一揆を企てたことがあったんだそうです。
お寺を出て、一揆をおこそうと説いてまわって、けど、実行に移す直前にばれて農民たちは殺されたりつかまったり。その時、彼だけは逃げ切ったらしいと。
そうして、その晩、枝垂れ桜の下で割腹して死んでいるのがみつかったんだそうです。
もっとも、それは桜の季節ではなかったし、格好も逃げた時のままだったそうですけどね。
けど、それ以来、桜の散る頃になると彼が現れて割腹する。そんな姿を目撃する者が出るようになったんだそうです。
僕はまだ二回しか見ていませんけど、毎年のことのようです。
もう、三百年くらい経っているそうなんですけどね。
当時は、既に彼はお寺を出ていたそうなんですけど、関係しているとみられて、お寺の方にもお咎めがあったり大変だった記録が残っているそうです。しばらくは廃寺だったそうですしね。それで、長年、ご供養とかは全くできなかったらしいです。
ようやく戦後になって法要もするようになって、現れている時には読経を上げて、お慰めしているのです、と、ご住職様はおっしゃっていました。
彼は、割腹することになるのなら、慣れ親しんだ枝垂れ桜の下で、その花びらが雪のように散る中で、 きちんと身だしなみを整えて最期を迎えたいと、 そう思っていたのかも知れません。
長年のご供養が効いているのか、あとは、その気持ちだけが、残っているんだと思います。多分、何年もしないうちに出なくなるでしょうね。
語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。
『百物語が終わるまで』
https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761
の作中話は800字程度に縮小させました。よろしければ本作もお読みいただけますと幸いです。
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