第8話 花 田中 篤

 遊びに来た父のいとこが、母に話しているのを聞いた話です。


 そのいとこは職場結婚で、当時は結婚すれば女性は退職するもんだ、っていう雰囲気だったみたいです。同じ課だったし、とか言っていました。結婚式の一ヶ月ほど前にそのいとこが退職することになって。その前に送る会をやってくれたんだそうです。

 お婿さんも一緒だったからちょっとした披露宴みたいな出し物もやったり、いい感じで終わったんだそうですよ、その会は。

 主役のいとこは、一つは課員一同から、もう一つは後輩の女性からって、花束を二つももらって帰ったそうです。

 その後輩は実家に温室があるっていう話で、既成のものに劣らない立派な花束で、綺麗な色使いの花束だったそうです。

 けど、その後輩の花束が、問題だった。

 当時一人暮らしだったいとこは、花束二つをもてあまして一つはバケツにつけておいて、後輩からもらった方を花瓶に生けて部屋に置いたんだそうです。まあ、一人暮らしで大きな花瓶を二つも持っている人は少ないでしょうから、仕方ないですよね。入れ物はバケツだけど大きな綺麗な紙袋の中にバケツごと入れて、遠目に楽しめるような場所に置いたとかなんとか言っていましたよ。

 翌日は休みだったし、その晩は遅くに眠ったそうなんですが。

 何やら明るいのを感じて、目を覚ました。

 薄く目を開けて見たら、ピンクや黄色の花がぼんやりとその色使いで淡く光っている。光を吸収して夜光るやつみたいに。

 寝ぼけてもいたし、近くに置いていた蓄光タイプの時計と同じ程度の光り方だったんで、市販されていない特殊な花なのかも知れないと納得することにして、彼女はそのまま寝なおしたそうです。

 で、朝起きて、そのことを思い出した。

 ひとくちに花って言っても、いろんな花が混じっていたわけです。バラとかカスミソウとかガーベラとか小さい百合みたいなやつとか、とにかくいろいろ、花弁の薄いのもまだ蕾の花も。

 それら全部が光ってたっていうのは、いくらなんでもおかしいと、ちゃんと起きてから思ったんだそうです。

 それで、婚約者の男に電話したんだそうです。バケツの花用に花瓶も借りたかったようですけどね。

 夕方近くなって、花瓶を抱えて婚約者がやってきた。それで、花を生けながら夕べの話をした。

 で、二つの花束に共通した花もあったんで、じゃあ、今晩二つ花瓶を並べてみれば何かわかるかも知れないということになって。

 そんなわけで、次の日も休みだったし、婚約者も泊まって、観察することにしたんだそうです。

 暗くなってから明かりを消してみたけど、特に光っていない。二つともね。じゃあ、夕べは寝ぼけていたか夢だったのかも知れないね、ということで花問題は解決ってことにとりあえずして。

 いろいろ今後のことを話し合っているうちに寝るのが遅くなって日付も変わって、明かりを消してもやはり花は光ってなかった。寝ぼけてたんだねー、と、仲良く就寝したそうなんですが。

 彼女は、また、ぼんやり光る明かりで目を覚ました。

 時計を見れば、夕べと同じ二時過ぎ。光り方も同程度。

 彼女は、隣で寝ていた婚約者を起こそうとしたそうですが、これが起きない。まあ、よほどのことがない限り朝まで起きない人なんで、単に目を覚まさなかっただけだろうとも言っていましたけど、彼女にしてみれば、結構力をいれて揺り動かしたつもりで。なのに起きないってことで、怖くなってきたんだそうです。

 花は夕べと同じで、後輩からもらった花しか光っていない。花瓶も入れ替えたし、水も同じ。いったいどういうことだろうと、婚約者を揺すりながら彼女はその花を見ていた。すると、一輪の花が、ふいに揺れた、と。

 たった一輪だけ。それが揺れて、ゆらゆらと上下して、その揺れのたびに、花の部分が間延びしていくように見える。

 どんなに声をかけて揺り動かしても、婚約者は起きない。そうこうするうちに、花は腕一本ほどの長さになって、そして、彼女の方を、見たんだそうです。

 ピンク色に淡く光る花は間延びした細長い顔に化けて、ちろりと彼女を、見たと。

 それが、変形しているのに、花をくれた後輩の顔に見えたんだそうで。恨めしそうな目で、それでいて寂しげな表情で、彼女をみつめていたんだって。

 その後、本人気絶しちゃったのか気づいたら朝で、妙な姿勢でベッドに倒れていたんだそうです。

 恐る恐る花瓶を見ると、花が一輪、首から落ちていた。

 結局、彼女はとうとう頭にきて婚約者を蹴り起こしたそうで、さすがに彼も起きてひと悶着あったらしいんですけども。

 やむなく、婚約者に花瓶と一緒に後輩からもらった花を預けた。まあ、その後は何もなかったそうなんですけど。月曜に会社に行ったら、その後輩がいつまでたっても出勤してこない。

 翌々日には出てきたけど、瞼とか、顔がむくんじゃってて。心配した同僚が聞き出したところでは、どうも、その後輩は退職が決まった彼女に、特別な感情をもっていたらしいと。

 それでも彼女を祝う気持ちも強くて、心を込めて花束を作ったと。その強い想いが彼女へ送った花へあらわれたんじゃないかってことらしい。

 ちなみに、その後結婚したご夫婦は、今も仲がいいです。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


『百物語が終わるまで』

https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761

の作中話は800字程度に縮小させました。よろしければ本作もお読みいただけますと幸いです。

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